カテゴリ:プレバト俳句を添削ごと査定?!
一月の笑いの外にひとりいた 残業の鍋焼M-1の出囃子 初笑い追い出す寄席のはね太鼓 爆笑や横隔膜に去年の揺れ 福笑いのような祖父の、死に顔 初旅のB席iPadにドリフ 盃の富士に一礼初笑 「犯人は…」に続く客席のくつさめ 笑ひ声洩るる交番注連飾 妣の忌や遺言だもの牡蠣フライ ばればれの手品の父や冬座敷 ゲラの子はゲラに育つや春隣 元日の大仏の鼻抜く女優 大笑ふ君は私似春間近 墓前にてあなたと笑った冬の空 雪景色転んだあとの顔判子
1月11日のプレバト俳句。 冬麗戦です。お題は「大笑い」。 上位から順に見ていきます。 ◇ 1位は春風亭昇吉。 一月の笑いの外にひとりいた 笑いの外に誰かを見つけたときのセリフなら、 「いた」という過去形にもなるだろうけど、 自分自身を描写したのなら、 ふつうは「居いる/居をり」と現在形にすべきです。 ◇ 2位はキスマイ横尾。 残業の鍋焼 M-1の出囃子 いつもの対句。 正直、このスタイルにも飽きたけど(笑)。 問題は季語の「鍋焼」です。 本来の「鍋焼」は、肉を野菜と一緒に煮る料理。 職場で豪勢に鍋焼を囲んでるのかしら? …とも誤読されるだろうし、 かりに「鍋焼うどん」の略だとしても、 キッチンのある職場で鍋焼うどんを作ったのかしら? …とも誤読されるはず。 しかし、 映像を見ると、即席の鍋焼うどんのようです。 思うに、 「いつものカップラーメンよりは贅沢」 みたいなニュアンスかもしれませんが、 そこらへんの作者の意図が量りにくい。 なお、歳時記にはないものの、 「M1」も「紅白」と同様に、 実質的に季語としての機能をもってるので、 ダメ押しの年末感がありますね。 ◇ 3位は梅沢富美男。 初笑い追い出す寄席のはね太鼓 ハネ太鼓の別称は「追い出し」です。 なので、言ってみれば、 「観客を追い出すのが寄席のハネ太鼓である」 との説明を、季語を使って俳句っぽく書いただけ。 いつもならボツになるパターンですが、 今回は景気の良さや縁起の良さもあいまって、 たまたま上手くいったかな、という感じ。 ◇ 4位はフルポン村上。 爆笑や 横隔膜に去年こぞの揺れ これは評価するのが難しい…。 季語でないものを上五で詠嘆し、 形式は二句一章なのに、中身は一物仕立てに見えます。 山本健吉の言葉を借りるなら、 《主題+細叙的な反復》かもしれないけど、 わたしにはたんに、 《主題+主題の説明》のようにも思えるし、 ある意味では、梅沢と同じく、 「笑いとは横隔膜の揺れである」との説明に、 季語を加えただけの句とも言える。 上五の「爆笑」が、 現在の爆笑か去年の爆笑かも分かりませんが、 それを切れ字で詠嘆した際の位置づけも、 どう解釈すればよいのか、判断しがたい。 ◇ 5位は立川志らく。 福笑いのような祖父の、死に顔 読点込みで17音ってこと? 散文でいうなら、 さしずめ「…」のような効果を狙ったものですが、 なんか小手先の技巧って気もする。 ◇ 6位は川島如恵留。 初旅のB席 iPadにドリフ 9+9=18音の対句。 他人のiPadなら、 初旅や 隣のiPadにドリフ と助詞の「に」を使ってもいいと思いますが、 自分のiPadだったら、 助詞は「の」を使うほうが妥当じゃないかな。 ◇ 7位は中田喜子。 盃の富士に一礼 初笑 実体験だといわれれば仕方ないけど、 富士の絵柄に頭を下げる場面は、 なんだかちょっと芝居がかっていて、 あまりリアリティを感じないのよね。 むしろ大袈裟に「一拝」「叩頭」などと書いて、 マンガっぽい滑稽味を強める手もあるかなと思う。 ◇ 8位の森口瑤子。 「犯人は…」に続く客席のくつさめ 「犯人は…」の静黙 客席のくつさめ(添削後) 原句は18音、添削句は19音の破調。 芝居の重要なシーンの緊張感を、 観客のくしゃみで遮られた様子ですが、 あえて「くしゃみ」と書かずに、 狂言っぽく「くっさめ」と描写した大仰さが、 この場面の滑稽味を強めています。 たしかに原句の「続く」が説明くさいけど、 うまい代替案を出すのもちょっと難しい。 ためしに17音で、 「犯人は!」…そこで客席のくつさめ でどうでしょうか。 ◇ 9位は千原ジュニア。 笑ひ声洩るる交番 注連飾しめかざり 兼題に対して内容が控えめすぎる… との理由で9位に甘んじましたが、 俳句自体の出来としては、 これがいちばん良いと感じました。 ◇ 10位は安藤和津。 妣ははの忌や 遺言だもの牡蠣フライ 母の忌や 遺言だもの牡蠣フライ(添削後) 母の通夜 遺言だもの牡蠣フライ(添削後) 梅沢が言うように、 「妣」と「忌」の重複は避けるべきなのか、 正直なところ、よく分からないけど、 まあ、あえて両方を並べずとも、 「母の忌」or「妣の日」で十分ってことでしょう。 なお、 後段のフレーズを面白いと思う人もいるでしょうが、 わたしは「相田みつを?」との印象が先立って、 どうも安っぽいコピーライトのように感じてしまう。 むしろ、 母の忌も遺言だから牡蠣フライ と書いたほうが滑稽味が増すのでは? ◇ 11位の本上まなみ。 ばればれの手品の父や 冬座敷 ばればれの手品の父や お正月(添削後) これも兼題に対して内容が控えめすぎる… との理由でランク外。 たしかに添削のほうがいいと思うけど、 個人的にはジュニアの次に良い出来だと思いました。 ◇ 12位はこがけん。 ゲラの子はゲラに育つや 春隣 大笑げらの子は大笑げらや 春隣のげらげら(添削後) 原句は、 助詞の「は」を使う必要を感じない。 むしろ「の」を使うのが妥当だと思います。 添削句のほうは「は」でいいと思いますが、 いつもながらリフレインがくどくて好きじゃない。 なお、Wikipediaを見ると、 「ゲラ」はおもに関西方言とあります。 とはいえ、その記述はやや信憑性に乏しい。 むしろ起源不詳の現代語じゃないのかな。 もちろん俳句に現代語を使っても構わないのだし、 「ゲラ=校了紙」と誤読される惧れがなければ、 あえて「大笑」にルビをふる必要もない気がする。 ◇ 13位はかたせ梨乃。 元日の「大仏の鼻」抜く女優 大仏の鼻を抜けたり お元日(添削後) これは東大寺の「柱くぐり」の場面。 おそらく、 「通り抜ける」を古語で「通り抜く」としたのでしょうが、 字面からは古語か現代語か判断できないので、 まるで鼻を「抜き取った」みたいに誤読されますね。 ◇ 14位は水野真紀。 大笑ふ君は私似 春間近 君は私似 春まぢかなる大笑ひ(添削後) 造語「大笑ふ」の是非と、 我が子の意味で「君」を使ったことの是非。 ※俳句では、恋人の意味で使うのが一般的。 ふつうに書いたら、 笑ふ子の顔は私似 春間近 私似の子の笑ひ顔 春間近 のようになるんじゃないかしら? ◇ 15位は勝村政信。 墓前にてあなたと笑った冬の空 冬空に笑う原田芳雄の墓前にて(添削後) 原句には2通りの解釈がありうる。 A: あなた(墓参りの同伴者)とふたり墓前で笑ったときの冬空を思い出してるよ B: 墓前にひとり立って、あなた(死者)と笑ったときのような冬空を見てるよ しかし、Aの解釈はありえません。 季語をふくめてまるごと過去の話になってしまうし、 そもそも「墓前で笑う」という行為が不謹慎です。 なので、Bの解釈が正しいのだけど、 過去と現在の時制が交錯して分かりにくいし、 上五に切れがあると言えなくもない。 かたや添削句にも複数の解釈がありえる。 A: 冬空に私は笑っている、原田芳雄の墓前で。 B: 私は「冬空に笑う原田芳雄」の墓前でたたずむ。 Aの解釈は、やはり「墓前で笑う」という不謹慎な話になる。 Bの解釈は、季語が過去の話になる。 したがって、両方とも許容できない。 かろうじて、 C: 冬空に「笑う原田芳雄」の墓前で立つ私 との解釈をとれば問題を回避できるけど、 かなり無理があるし、これなら原句のほうがマシ。 ためしに句またがりで、 冬空の墓前 あなたと笑った日 としてみました。 ◇ 16位はえなこ。 雪景色 転んだあとの顔判子 失恋や 雪にわたしの顔の痕(添削後) 下五「顔判子」の比喩の是非。 手をつかずに顔面から転ぶ場面が、 なにやらマンガっぽくて嘘くさく、 比喩そのものもつまらなく思えるけど、 あえてマンガっぽさを自嘲して、 雪に転べば見事なる顔の型 のようにも書けるかもしれない。 ◇ 清水アナ。 ゴーグルの雪焼け はきと残りけり 先生が言うとおり、後段の説明は不要ですね。 かりに横尾っぽい対句にすれば、 オフィスの休憩 ゴーグルの雪焼け みたいな感じでしょうか。 なお、「ゴーグル」には、 スキーの雪眼鏡や、水泳の水中眼鏡のほかに、 オートバイ用とか、最近はVR用ゴーグルもあるけど、 なぜか歳時記によっては冬の季語になってるらしい。 一昔前の日本人にとっては、 もっぱらスキー用語だったのでしょうねえ…(^^; — 清水麻椰 (@mayasmz4) January 6, 2024 ▽過去の記事はこちら https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/ctgylist/?ctgy=12 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.21 18:35:43
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