カテゴリ:プレバト俳句を添削ごと査定?!
本職に黙礼される今年も春 春の雲血のり右目に染みており 春夕焼台本ト書き「ここで泣く」 初刑事手錠震わす余寒かな 冴えかえる帰宅後妻の取り調べ ロケバスに積む犯人の春日傘 張り込みのあんぱん香る桜漬け 刑事ドラマ沈黙破る鶯よ
2月15日のプレバト俳句。 お題は「刑事ドラマ」。 ◇ 矢柴俊博。 春の雲 血のり右目に染みており 春の雲 右目に染みてくる血のり(添削後a) 撮影のどか 右目に染みてくる血のり(添削後b) 紺野まひる。 春夕焼 台本ト書き「ここで泣く」 春夕焼 ト書き犯人「ここで泣く」(添削後) どちらの句も、 上五に季語を置き、撮影の場面と取り合わせた作品。 添削は入ったものの2句とも「才能アリ」の査定でした。 なお、矢柴俊博の添削は、 (b)よりも(a)のほうがいいと思う。 状況は下五の「血のり」で想像できるはずだから、 わざわざ冒頭から字余りでネタバレしなくともよい。 ◇ 内藤剛志。 本職に黙礼される 今年も春 本職に黙礼さるる春やまた(添削後) 上の2句をおさえて、 今週の一位だったのがこの作品。 しかし、その評価が適切かは疑問です。 まず作者が誰かを知らなければ、 上五の「本職」の意味が分かりにくい。 リズムや形式の面でいうと、 下6の字余りもさることながら、 中七に切れがあるかどうかも判然とせず、 (終止形か連体形かが不明瞭) 俳句の形として、いまいちボヤッとしてる。 … 添削句は、 古語を使って動詞が連体形であることを明示し、 くわえて下五の字余りも解決してます。 ちなみに、ここで注目したいのは、 添削句の下五「や」の用法です。 以前もこういう添削があった気がするけど、思い出せない。 一般に、 切れ字「や」は場面を転換するため、 リズムだけでなく意味の切れも生むのですが、 実際には、 場面転換をともなわない「や」もあって、 たとえば芭蕉の「古池や」も、 じつは場面を転換してないとの解釈がある。 また、日本語の間投助詞「や」には、 詠嘆のみならず呼びかけの意味もあるので、 たとえば「ポチや、お食べ」のようにも使える。 そこに場面転換はなく、 多くの場合はリズムの切れさえありません。 詩歌にも「これやこの」「春や春」などの例がある。 それらは切れ字とは異なる「や」の用法です。 なお、 場面を転換しない「や」の用法については、 ↓以下の記事でも言及されてます。 https://www.sakigake.jp/special/2020/haiku/article_55.jsp ◇ トレンディエンジェル斎藤。 冴えかえる帰宅後妻の取り調べ 冴返る深夜の帰宅 妻や待つ(添削後) 下五の「取り調べ」はつまらない比喩。 しかも、比喩だと伝わらなければ、 妻が容疑者になった場面と誤読されます。 かたや添削のほうは、 またも下五で切れ字ではない「や」の用法! もしや先生のマイブーム? その是非はともかく、 今後、この用法が増える可能性もあります。 ◇ 大友花恋。 初刑事手錠震わす余寒かな 余寒なり 手錠をかける初シーン(添削後) 切れのない一句一章を「かな」で締める形。 俳句の型はちゃんと出来てますが、 主語に助詞がないため、 リズムが上五で切れるのはちょっと惜しい。 上五の造語「初刑事」は、 兼題写真がなければ読み手に伝わらず、 「刑事としての初仕事」 「生まれて初めて会った刑事業の人」 などの誤読を招きます。 また、 初めての刑事役に挑んだ「緊張」を、 季語の「寒さ」と重ね合わせたことで、 かえって焦点が散漫になっている。 それらの問題は、 刑事デカ役の手錠震わす余寒かな のように書けば、いちおう解決します。 季語の「余寒」と「震え」が、 重複(もしくは因果関係)に当たるとの見方もありますが、 「刑事役の手錠の震えない余寒があったら持って来い!」 とまでは言えないし、 むしろ原句の問題は、 「緊張」&「寒さ」の二重の因果が重複する点にあるので、 「緊張」の要素を排して「寒さ」だけに特化したほうが、 (添削というよりも改作になるけれど) 手錠の金属の冷たさも際立ってくるはず。 かたや添削句のほうは、 「緊張」&「寒さ」を両立させたまま、 それらが「震え」に帰結する因果関係を排除した形です。 もちろん、それもひとつの選択ではある。 ちなみに、 添削の上五は「なり」で言い切る珍しい形ですが、 その是非はちょっと判断しかねます。 ◇ 清水アナ。 刑事ドラマ 沈黙破る鶯よ ここで描かれてる状況は、 舞台かドラマかの違いはあれど、 森口瑶子の「くつさめ(くっさめ)」の句とほぼ同じ。 上7字余りの「刑事ドラマ」はちょっと状況説明的だし、 下五の「よ」は詠嘆するだけの必然性に乏しく、 取ってつけただけの音数合わせに見える。 鶯の鳴き声を《子季語》と見なせば、 刑事デカ役の台詞遮るホーホケキョ のような定型にも出来ますが、 それでもまだ因果関係の説明くささが残る。 やはり森口瑶子の「くっさめ」と同じく、 刑事デカ役の沈黙 鶯の初音 のような対句に直すほうが描写的ですね。
◇ 森口瑤子。 ロケバスに積む犯人の春日傘 犯人が女…ってところにドラマがありますよね。 しかも日焼けを嫌う優雅な金持ち女の役どころ。 その天気の良さとサスペンスの暗さの対比も面白い。 ◇ 梅沢富美男。 張り込みのあんぱん 香る桜漬け 桜漬けほんのり 張り込みのあんぱん(添削後) 原句は、 切れがあるのかないのか分かりにくいものの、 香るのは「あんぱん」じゃなく「桜漬け」だろうから、 構造的には中七で切れる句またがりです。 (作者にその自覚があるかは知らんけど) そして、 そのことをハッキリさせるためには、 張り込みのあんぱん 桜漬け香る と書いて動詞の主語を明確にすればよい。 ▽過去の記事はこちら https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/ctgylist/?ctgy=12 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.02.22 15:28:30
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