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まいかのあーだこーだ

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2024.03.28
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アガサ・クリスティ原作、
ヒュー・ローリー版「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか」。
とても洒落ててカッコいいドラマだったけど…
あまりに話が複雑すぎて理解しきれないよ!!!

つーか、

必要な描写を端折りすぎてるし、
細かい部分を誤魔化してる気もします。
原作を読んでなければ、
事件の詳細を理解できないのでは??

これだからサスペンスドラマはストレスが溜まるのよね。
じゃあ見るなよ、って話だけど…(^^;

しかも、今回のNHK版は、
字幕翻訳にもミスがあるように思います。




翻訳が疑わしいのは、

最終盤で、ボビーとフランキーが、
料理人だったチャドリイ夫人宅を訪れたシーン。
(チャドリイは旧姓で現在はプラット夫人です)

サヴィッジ氏について尋ねた次のやりとり。

ボビー「彼はミルハウスによく来ていたんですよね」
プラット夫人「グラディスに聞いて。私はひとつ聞いただけ」

この「私はひとつ聞いただけ」というセリフが、
どうも意味不明なのよね。

英語の音声は聞き取りにくいけれど、
わたしの耳には「I saw him there for once」と聞こえるし、
そうだとすれば「私はいちど会っただけ」と訳さねばならない。

このやりとりは、
「なぜエヴァンズに(遺言書の署名を)頼まなかったのか」
という核心にかかわる部分なので、
このセリフが意味不明じゃ真相が理解できないでしょ。



なぜサヴィッジ氏は、
遺言書の署名をグラディス・エヴァンズに頼まなかったか。
それはグラディスが「本物のサヴィッジ氏」の顔を知ってたから。
遺言書の署名に立ち会ったのは、たぶん共犯者のロジャーだよね。

プラット夫人は、
署名のときに「いちど会っただけ」なので、
ロジャーのことをサヴィッジ氏と思い込んだ…というトリック。
(逆に、サヴィッジ氏の死体を確認したのはグラディスだけ)


だとすれば、
やはり上記のセリフは「私はいちど会っただけ」と訳すべきでしょ。



前にも書きましたが、わたしは、
CBCの「アンという名の少女」のときにも、
NHKの翻訳にはミスがあったと思ってる。

マシューがマリラを呼ぶときに、
二人称を「姉さん」でなく「おまえ」と訳していたのです。

原作の「赤毛のアン」では、
マシューが兄でマリラが妹なのだけれど、
CBCのドラマ版では、
マリラが姉でマシューが弟に変わってました。

姉に対する二人称を「おまえ」と訳すのは不自然ですが、
字幕制作者は、そのことを考慮せず、
おおかた原作の翻訳に準拠したのでしょう。

こういうミスは、
もちろん翻訳者の責任でもあるけれど、
NHKのプロデューサーや演出家の責任でもある。
要するに、
内容を理解した上でチェックをしてるのかってこと。

じつは誰も内容を理解せずに、
漫然と海外ドラマを放送してる可能性がある。



ここからは詳細なネタバレです。

今回のミステリーの複雑さは、
たんに登場人物が多いだけでなく、
姿を現さない人物の名前を混乱させるところにあります。

たとえば上記のチャドリイ夫人も、
再婚してプラット夫人に変わってましたが、
ほかにも名前が変わってしまう人物が3人います。

第1に、
崖から落ちて死んだ男性は、
ケイマン夫人の兄「アレックス・プリチャード」とされるのですが、
この名前は嘘の証言にもとづいているので、
本当はサヴィッジ氏の友人「アラン・カーステアーズ」です。

第2に、
ニコルソン院長の妻「モイラ・ニコルソン」は、
じつは主犯の「ローズ・テンプルトン」(テンプルトン夫人)なのですね。
再婚して姓が変わっただけでなく、
偽名なのでファーストネームも変わっています。

第3に、
タイトルになっている「グラディス・エヴァンズ」は、
主人公ジョーンズ邸の家政婦「グラディス・ロバーツ」(ロバーツ夫人)です。
この人も結婚して姓が変わったのでしょうね。



結論から先に言っちゃいますが…

主人公のボビー・ジョーンズ(♂)は、
「モイラは美人だから犯人じゃないっ!!」
と思ってて、
かたや相棒のフランキー(♀)は、
「ロジャーはハンサムだから犯人じゃないっ!!」
と思ってる。
そして怪しげな学者がいちばん疑われる図式(笑)。

でも、結果的には、
「モイラとロジャーの共犯だった」
というオチです。
つまり、
男は美人に甘いし、女はイケメンに甘いよねって話。

そんな男女がバディを組んで事件の謎解きに挑み、
最後はめでたく結ばれるハッピーエンドになってます。



以下、時系列に並べた事件の経緯です。

1.モイラがサヴィッジ氏を服毒自殺と見せかけて殺害。


ローズ・テンプルトン(のちのモイラ)が、
船上で資産家のサヴィッジ氏に接触して誘惑。
その後、ローズはロジャーと共謀し、
サヴィッジ氏の遺言書を書き換え、
料理人のチャドリイ夫人と庭師のアルフレッドに署名させる。
(女中のグラディス・エヴァンズには署名を頼みません)

そして翌日にサヴィッジ氏を殺害したと思われます。
ただし、ロジャーは「自殺に追い込んだ」と話してます。
(どうやったら自殺に追い込めるのか知らんけど)

いずれにせよ使用されたのは抱水クロラールですね。

2.エンジェルが転落事故死に見せかけてアランを殺害。


サヴィッジ氏の自殺に疑念をもったアラン・カーステアーズは、
ロバーツ夫人(=グラディス・エヴァンズ)に接触して、
遺言書の謎を解こうとしていたのでしょうね。
でも、モイラに雇われたエンジェルによって崖から突き落とされた。
ボビーは崖下で瀕死のアランを発見し、
「なぜエヴァンズに頼まなかったのか」との最後の言葉を聞き、
所持品の「写真」「キーホルダー」「万年筆」を確認します。
そこに現れたロジャーは、ボビーが去ったあとに、
モイラの写真をケイマン夫人の写真にすり替えたのですね。
モイラに雇われたケイマン夫人も「死体は自分の兄だ」と嘘の証言。

3.エンジェルがモルヒネ入りのビールでボビーを殺害未遂。


ボビーも、ケイマン夫人を死んだ男(=アラン)の妹だと信じ、
彼が死に際につぶやいた言葉を伝えてしまいますが、
このせいでエンジェルから命を狙われることになる。
移動遊園地での仕事中には、
少年たちから「雇用主からの差し入れ」とビールを貰いますが、
致死量のモルヒネが入っていたために死にかけます。
ブエノスアイレスからの仕事依頼も偽造でした。
ボビーの友人ノッカーまでもがエンジェルに襲撃される。

4.エンジェルが首吊自殺に見せかけてトーマス医師を殺害。


トーマス医師はロジャーのことを疑って調べてたらしい。
しかし、エンジェルが彼を殺害。警察はそれを自殺と断定。
ボビーは警官に「自殺は不可解だ」とうったえますが、
警官は「不可解な自殺もありうること」と諭したうえで、
資産家のサヴィッジ氏の自殺も不可解だったと言います。

5.ロジャーが兄のヘンリーを拳銃自殺に見せかけて殺害。


ロジャーは「カインとアベル」の話をしてましたが、
もともと兄のヘンリーとは仲が悪く、
当主のくせにモルヒネに散財するのも憎かったらしい。
あらかじめ拳銃で兄を殺したあと、
爆竹音を銃声に偽装してアリバイを作ったようです。



以下は、2人による謎解きの手順です。

ボビーは、
宿のキーホルダーや宿台帳から、
崖で死んだ男がアラン・カーステアーズだと知り、
彼が資産家のサヴィッジ氏の友人だったことも、
2人が映った写真から知ることになります。

フランキーも、
海陸軍クラブが引き取ったアランの荷物の中に、
サヴィッジ氏からの大量の手紙を見つけ、
サヴィッジ氏とローズ・テンプルトンとの恋愛を知ります。
ただ、その時点ではローズが誰なのかを分かってません。


…その一方で、

ボビーとフランキーは、
ヘンリーの妻と恋愛関係にあるニコルソン博士が、
モルヒネ中毒のヘンリーを入院させようとしてると知り、

さらにニコルソン博士の営む精神病院の周辺で、
モイラやケイマン夫妻やエンジェルの姿なども見かけ、
ニコルソン博士への疑惑をどんどん強めていきます。

とくにボビーは、
モイラ・ニコルソンから怪しげな電気療法のことを聞き、
妻のモイラも何らかの被害者だと思い込むわけですが、
これこそが最大のミスリードになります。


…なお、ボビーは、
トミー(=ヘンリーの息子)が使っていた万年筆を見て、
それがサヴィッジ氏から貰ったものだと知りますが、
これがミスリードになったか、真相につながったかは微妙。



そして、最後の事件は以下のとおり。

6.ロジャー&エンジェルがボビー&フランキーを殺害未遂。


ボビーとフランキーは旧テンプルトン邸(通称ミルハウス)に監禁され、
ロジャーとエンジェルに電気ショックで殺されかけますが、
間一髪のところで仲間のノッカーに救出されます。

電気療法を悪用したのはニコルソン博士ではなく、
その妻のモイラ(=ローズ・テンプルトン)と、
彼女の一味であるロジャーやエンジェルだったわけです。

つねにボビーとフランキーを守ってくれるのは、
黒人のノッカーやアラブ系の使用人ですね。
彼らは忠実な善人として登場する形になってる。

7.モイラがボビーを殺害未遂。ロジャーがロバーツ夫人を殺害未遂。


ボビーは最後までモイラを被害者だと信じてますが、
もともとモイラをいぶかしく感じていたフランキーは、
彼女がボビーの紅茶に抱水クロラールを入れたのを暴き、
モイラの正体こそローズ・テンプルトンなのだと見破ります。

そのころ、ボビーの家では、
家政婦のロバーツ夫人(=グラディス・エヴァンズ)が、
ロジャーによって殺されかけるのですが、
ボビーが駆けつけてロジャーを取り押さえます。

そして収監されたロジャーからすべての真相が語られます。




いろいろツッコミどころはある気がしますが、

個人的に最大のツッコミどころは、
車の偽装事故を見破るほど明晰なニコルソン博士が、
なぜモイラのような女と結婚し、
彼女の正体がローズ・テンプルトンだとも気づかず、
片方では他人の妻と恋愛関係になり、

妻の犯罪には気づかぬまま、
護衛として雇ってるエンジェルの犯罪にも気づかず、
不倫相手の義弟であるロジャーの犯罪にも気づかず、
ケイマン夫妻の犯罪にも気づかないのかってこと。
周りの人間が犯罪者だらけだよね。

ちなみに、
この間抜けなニコルソン博士を、
脚本・演出のヒュー・ローリー自身が演じてました。




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最終更新日  2024.04.08 02:48:18
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