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カテゴリ:ちょっと医学なお話
少し前だったか、日経メディカルと言う雑誌の特集で、あなたの座右の銘にしている本は何ですか?と言う特集があった。
このとき色々と考えて居たけど自分にとってはこれだなと思った本がこれだ。 定本育児の百科 松田道雄著 岩波書店 この本に出会ったのは開業医になって子供を診るようになってからのことだ。 誤解を招くといけないので言っておくが、この本は医学書ではない。 一般の人に向けて書かれた育児書なのである。 開業当初、ヒロキは2歳でミドリは0歳だった。 だから僕らは自分の子育てをしつつ、子供の患者さんを診ることを学んできた。 それはある意味すごくラッキーな事だったと思う。 目の前に生きた教科書が2匹も、いや2人も居たのだから。 この本の特徴は、赤ちゃんの月齢に合わせて1か月ごとに体の成長、発達、ミルクやお乳の注意、かかりやすい病気やその対処についてかかれてあることだ。 だから、分厚い本だけどもその月例のところだけ見たら良いようになっている。 いや、赤ちゃんの月齢に合わせてと書いたけども、正確には生まれる数ヶ月前から気をつけることについて書かれてある。 さらに、さらに・・この本の一番最初に書かれてあるのは、父親に向けての言葉なのである。 「妊娠出産は、女性にとって一大事なのだ。だから夫は全力で妻に協力し、妻を精神的、体力的に支えないといけない、家事も育児もきちんと助け合っていかないといけない」と。 そんな事を書いてある育児書ってなかなか無いよね。 そしてこの本に流れているのは一貫した著者の親と子供に向けられる暖かい視線である。 病気の事を事細かに説明するのではなく、殆どが初めての子育てで悩みやすい、陥りやすい心配事について、心配ないんだよ、大丈夫だよと語りかけているのである。 だから、この本を読むと安心して暖かい気持ちになれる。 この本が出版されたのは1967年だからもう40年も前の事である。 医学は日進月歩だからもう古いのでは?と思われるかも知れない。 しかし、そんな事はない。 いつの時代も子育ての基本は同じなのだと納得できる。 最近はマタニティー関係の書籍、雑誌は山のように出版されているけども、この本を超える物はまだ出てないのではないだろうか? 知り合いの若いお父さん、お母さんに是非プレゼントしてあげたい本だ。 そして最近、この本のCD-ROM版が出た。 と、言ってもこちらは電子辞書の形態をとっていて、自分の知りたいことを検索したらそれに関連したページの記述が出てくるという物。 だから間引きするにはいいけど、やっぱり本として読むのが面白いと思う。 最後に、アマゾンでこの本と作者の事を非常にわかりやすく解説してある書評があったので、この場に掲載させていただこう。 ******************************************* 松田道雄がこの育児書を生み出してくれたことで日本の育児の世界は変わった。 松田道雄は戦後、京都に小さな診療所をかまえ、あえて看護婦(師)をおかず、じっと母と子どもの関係をみながら育児と病気の相談を受けていた。医療行為は最小限必用なことしかしなかった。自然に治ってゆくのだ。その強い信念。ラジオの育児相談も担当した。日本の風土で定着している育児の仕方には意味があるという民俗学的視点を大事にした。戦後、日本の庶民の子育て文化が全否定されていく風潮の中で松田は親たちに話しかけつづけた。安易に欧米流を良しとはしなかった。『赤ちゃんの立場に立とう!』さらに保育所の保母さんとの集団保育の研究、ついには「自由保育」の提唱。彼の子どもをみる目には日本社会の戦後の大変化がきちんととらえられている。さらにドイツ語、ロシア語、フランス語を解する語学の天才は20冊の世界中の小児科雑誌に目を通し、世界の小児科の最新情報を改版のたびごとに母親たちに伝えた。 敗戦後の母親たちは、核家族化の中で子育てしなければならなかった。おばあちゃんがいたら教えてくれることを彼は大事にこの本の中に残している。『母親をまず安心させること』この本は子どもの年齢に沿って少しずつ読むようになっている。さらに小児科医が説明しない「子どもの病気」についてわかりやすく伝えてくれる。この工夫はすごい。まことに分厚い本であるが、忙しいお母さんもいつのまにかこの本を読んでしまう。そのときには我が子は大きく育っているのだ。挿入されている写真も、すばらしい。子どもが普段と変わったとき、まず親がどっしりとするよう細心の心配りをしてある。戦前、日本結核予防協会の京都の診療所の初代所長は彼であった。彼の誇りを知りたいならば「子どもの病気」の結核の項目を読めばいい。「結核といわれたら誤診と思え」と言い切っている。自由保育の味方。孤立した核家族の母親の味方。母親の心の安定剤。日本の保育への大きな贈り物であった。 「定本」として岩波書店は出版しつづけることにしたのは岩波書店の彼への感謝である。松田道雄以上の小児科医は20世紀においては日本においては登場しなかった。とうとう「定本」になってしまった。寂しい。 わかりやすい言葉を慎重にえらびながら松田道雄は様々なことを私たちに教えてくれているのである お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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