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カテゴリ:ちょっと医学なお話
少し前のことだが、診療でごったがえす朝の外来中に電話がかかってきた。
当院に通院している患者さんのお嫁さんからで、「おじいちゃんがベッドの中で死んでいるようだけどどうしたらいいですか?」と言うことだ。 家で亡くなった場合、どうみてももうじき亡くなりそうな患者さんで、医者の往診が24時間以内にあればそのまま死亡診断書が書ける。 でも、往診してから時間が経っている場合や、誰も死ぬと思ってなかった人が亡くなった場合には、警察の検死をを受ける事になる。検屍官が死亡を確認して死体検案書と言うのを死亡診断書の代わりに発行する。もちろん、死体検案書は普通の医者なら誰でも書ける。 だからこの人の場合も検死を受けないとあかんのだけど、それを電話で説明するのも埒があかないし、家族は途方に暮れているので外来の患者さんを待たせてとりあえずお家へ向かう。 この患者さんは6年ほど前から当院に通院していたけど、通い出して直ぐに偶然「こんな小さいの誰が見つけた?」と言うぐらいの肺ガンを偶然僕が見つけて大学へ紹介し手術をしたが、早期癌だったにも関わらずその後2回も局所再発して合計3回も手術をする羽目になった。 最近もPET-CTではあちこち集積があって、術後変化をとらえているのかも知れないけど、ひょっとしてまた再発かも?と疑われていた。それでも元気で、前日は孫達大勢と食事をして畑仕事もしていたらしい。 ベッドにうつぶせの格好で亡くなっていた彼は、既に死後硬直が完成していて、うつぶせになった下側は鬱血で紫色に変色していた。いつも起きるのが遅いので、NHKのドラマが済んでから起こしに行く事にしてるお婆さんが部屋へ行ったときにはもう既に無くなっていたと言うが、実際に亡くなったのは夜中すぎぐらいになるのだろう。普段から静かに寝る人だったので、お婆さんは隣のベッドで寝ている爺さんが亡くなってるのに気がつかなかったのだろう。 見たところはどう見ても病死だが、何の病気かははっきりしない。 突然死ぬ病気だから、脳血管障害か心臓血管障害なのだろうけど。 一応型どおり警察へ電話をする。今までに何度かこういうケースがあったけど、警察も適当な所があるのか、きちんと出向いてきた事もあれば、先生が病死と思うならそれで処理しておいてくれと言われた事もあった。 今回はちゃんと真面目に警察はやって来た。 事情聴取をしたり写真を撮ったり、今までの病状経過を聞かれたりして終わったのはお昼前。 その間配偶者が診てくれたから良い物の、1人でやってる診療所なら困ってしまうところだ。 病院へ帰ってきてから死亡診断書ではなく、死体検案書を書く。死亡診断時間は推定になる。 死因に関してはこういう場合、「不詳の病死」となる。「急性心不全」なんて書いてはいけないのよ。備考欄に今までの病状経過と発見された状況を書く。 ああ、もうちょっとで今年も越せたのに残念やなあ。 律儀な人で毎年お歳暮に日本酒の詰め合わせをくれたのを思い出す。 こんな状況やから、殆ど苦しむ事なく逝ったんやろうけれども、幾ら苦しまなくてもこんなに急なのは本人も家族もちょっとしんどいな。 本人も家族も予想していなかった突然の死。 あまりにあっけ過ぎてどないに言うて良いのか分からない。 誰も心構えが出来てないもんね。まだ納得できずに魂がそのへんに居るかも知れへんな。 今は家族もバタバタと忙しいけれど、葬式済んでほっとしたらじわっと悲しくなるんやろうねえ。 長患いも苦しむのも嫌やけど、やっぱり身の回りの事をちゃんと済ませて、みんなに見送られて逝きたいよなあ。 人間なんて、自分の死さえも思うようにはならない。 だから、今をしっかり生きるしかないね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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