見たまま、感じたまま、思ったまま

今日は肘内障と思える子供さんが来た。

お兄ちゃんが手を引っ張ったらその後から腕が痛いと泣いて手を動かさなくなったと。
これは典型的な肘内障の発症形式である。
よくあるのは、親が手を引っ張った時になるのだが。

え～と、肘内障と言うのは一言で言えば肘関節の手前の前腕の肘近くにある関節の脱臼である。
上腕と前腕をつなぐ関節は、上腕骨と尺骨からなっていて、これは腕ひしぎ十字固めで破壊される関節だが、前腕は尺骨と橈骨と言う２本の骨から出来ていて（よくわからない人は鶏の手羽先を観察してみてください）、尺骨と橈骨の関節は肘の少し手前にあり、がっちりと入り込むような結合では無く、寄り添うようになった２本の骨を靱帯が包んでいる関節である。
従って、特に子供では容易くはずれやすい。

文字で書いてもわかりにくいかな。
絵のあるサイトがなかなかないけど、こういうサイトがありました。

まあ、診断も簡単だし治療も簡単だ（らしい）けど、実際に自分が治療するかと言うと病院つとめの頃はこういうのは小児科医か整形外科医が診てくれるので、自分では診察治療する機会がない。
外科と分かった時点で自分は免罪符を貰ったような気になって「じゃあ、専門の先生に診て貰ってね～」と言うことになる。

もちろん、開業していても整形の病気だからと他所に言っていただくことは可能だけど、折角の機会だから勉強させていただくことにした。
あ、練習台にさせて貰おうと言うことではないです。家庭医として頼ってきてくれているのだから、何とか期待に応えなければと言うことです。初めてだけどやらせて貰おうと。
もちろん、親が嫌がれば専門医へ紹介するし。
（ただ、治療とすれば、診断さえ付けば親でも治せそうな病気ではある・・）


頭の中の知識しかないので、もう一度教科書を出しておさらいをする。
別に患者さんの前で医学書を広げる事は全然恥ずかしいことではない。
僕は内科の患者さんの前でも分からないときには本を広げて調べるようにしている。
分からないのに、対面を気にして分かったふりをするのが一番あかんのね。

そして本に書いている通りに、思い切ってやってみたら（こういうのは思い切りが大事）ボキっと入る感触があった。
泣き疲れてぐったりと寝ていた子供を起こすと手を動かすようになったので治ったなと分かった。
なんかこういうのは嬉しい。達成感があるのだ。
頭の中でいくらわかっていても実際に自分がやったことがなければ、本当にその時に出来るかどうかはわからない。医療（医学ではない）は何事も知識よりも経験が大事だと思う。

もちろん、患者さんの為を思い専門医を紹介・・と言う意見もあると思うが、それは自分がやらないエクスキュースになっているかも知れないし、じゃあもし専門医が居ない状況で自分がやらないとあかん状況だったらどうする？と考えると、経験を積むことは大事だと思うし、それが家庭医として求められるものだと思う。
もちろん、自分の力量と限界はしっかりしっておかないとあかんし、うまくいかないときには勇気ある撤退も大事であるのは言うまでもないことだが。

そう言えば、脱臼の整復という事に関して、もうひとつ思い出があるけれどそれはまた別の機会に・・。