The Apprentice - その1
BBCで毎週水曜日夜9時にやっている「The Apprentice」(見習い奉公)という番組が私の廻りで大人気である。今回で何回目かのシリーズになるらしいが、電子機器の輸入販売みたいな会社を経営しているたたき上げのイギリス人大富豪ビジネスマンAlan Sugarが、年俸10万ポンド(約2400万)で彼の会社に登用する人材を選抜するコンテスト番組である。12週連続のシリーズ。仕事はチーム・ワークが基本とばかりに、候補者は毎週2チームに分けられ、与えられたタスクで勝ったチームのメンバーは無条件に次週に勝ち進む。で、負けたチームのメンバーの中の一人が、毎週一人ずつクビにされていくシステムだ。この誰をクビにするかを決定する過程で、負け組みのメンバーがお互い名指しする機会が与えられていて、ここでの仲間内の足の引っ張り合い(「あんたがあの時こういう失敗をやったからうまく行かなかった」、「リーダーが間違った決断を下した」などのチクリ合い)や口論も結構な見どころである。誰が落選するのかを最終決定するのは勿論Alan Sugar。番組終了5分前に例のキメ台詞「You’re fired」と戦いに敗れた候補者を指さして、番組は終わっていく。当初16人いた候補者も、11週目が終わって現在最終候補者の2人が残っている。候補者は20歳台から30歳台の男女。白人、黒人、インド人、イスラム系と、当たり前だが人種は問わない。大抵、元の肩書きはMarketing Manager、Business Development Manager, Brand Consultant, Sales ManagerはたまたDirector等で、この番組に出る為に前の仕事をすっぱり辞めて、コンテストの間はひとつ屋根の下で共同生活をしている。マネージャーとして資質を見極める為に毎週出されるタスクは、実際にありそうなビジネスのミニミニ・バージョンといったところ。例えば、「フランスの小さな町のマーケットに、イギリスの食料品の屋台を出して多く売った方が勝ち。」これなんかはマーケットを見極める力、プレゼンテーションのセンス(ここでは屋台の飾りつけ)、そして勿論コスト・マネージメント力も試されている。飾りつけにお金をかけ過ぎたのが後々結果にひびくなんて事もあるから。この回では、フランスのマーケット相手にイギリス製のチーズを選んだチームがコテンパンに扱き下ろされた。そう、口のこえたフランス人がイギリスのチーズなんて買う訳がないから。フランスのスーパーでは数十メートルにわたってチーズ売り場があるが、イギリスのチーズは売られていたためしがないとか。(だからこそ、挑戦してみる価値ありなんて意見もあったが)。それからこの回、試食して美味しいと思ったものを買う(らしい)フランス人相手に、ソーセージの実演販売を試みたアーミー出身の候補者。昔、軍のキャンプで覚えたとかいう、空き缶に固形燃料のお手製コンロを使ってソーセージを焼こうとして、火力が弱くて失敗。このタスクで、プロジェクトマネージャーとしてチームをリードする立場にあったこの元アーミー君は、空き缶+固形燃料でなんとかソーセージを焼こうと悪戦苦闘しているチームメンバーに付きっ切りになってしまい、あげくのはてには、売れ残りそうなソーセージを直接近所の肉屋に持って行って売りさばこうと現場を放棄。意味のわからない行動の連続でクビになった。きっとこの彼、そうやって細かいところを拾ってメンバーを助けていく事こそがマネージャーの役目であると教えられてきたのねーって感じ。肝心の現場指揮はどうなのよって感じである。ちなみに、どうしてもソーセージを焼いて食べさせなければ売れないことに気付いた女性メンバーの一人は、生のソーセージとフライパンを持って近所のレストランに「ソーセージ焼かせて」と交渉。焼けたソーセージを試食で出すと除々にソーセージは売れ始めた。こういうとこ、女性の方が実際的である。それから「指定された品物をいかに安く買って戻ってくるか」ってタスクもあった。これは交渉力を見るテスト。さらに、例によって、品物のリストを貰ってからタスク終了まで24時間しか与えられていない点から言えば、タイム・マネージメント(時間配分)や行動力も試される。買い物リストの中に誰も聞いたことないようなインド系だかの香辛料が入っていて、結局これを買えなかったチームのプロジェクト・マネージャーがクビになった。後は、「廉価のスニーカーにロゴをつけてテレビCMとポスター作りを行う。」(これは広告代理店により審査)や、「テレビショッピングのチャンネルで、自分達で選んだ品物を売る」や、「卸先を見つける」等々のタスクが毎週与えられた。全体的にマーケティング知識や勘、プレゼンテーション、交渉力、それからプロジェクトマネージメント力が試されている印象だ。マネージメントは、その業界である程度経験を積んでからでないと的確な判断なんてできないものだと私は思うのだが、テレビでのプレゼンテーションといい、コマーシャル製作といい、勿論、ほとんどの人が経験したことのない分野。得意なエリアでは自分のスキルを最大限に発揮して、かつ、初めての仕事でも致命的なミスを犯さないよううまく立ち回るなんて、かなり難しいと思う。ネットでは、もう次回のシリーズに向けて候補者の募集が始まっている。観光ビザでこんな番組に参加できるのかはわからないが、日本人の候補者をいつかこの番組でみてみたい。