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2006.06.21
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カテゴリ:コラム
 クォーツショックから30年が経過し、現在機械式時計は目覚しい復活を果たし世界中の愛好家から愛されるに至りました。そして愛好家の関心は心臓部であるムーブメントに向くようになり、時計メーカーは彼らの関心を集めようとムーブメントの付加価値を高めることに必死です。その甲斐(?)あってムーブメントによる時計の価格差は大きくなる一方です。ブランドネームだけで価格が決まっていた時代よりは進歩したと言えるでしょうが、現在のムーブメントによる価格吊り上げ合戦が正しい方向とも思えません。そこで、ムーブメントの価値についてじっくり考えてみたいと思います。(多少偏った見方をしているかもしれませんがご容赦を...)

「第1回:そもそも何故ムーブメントに拘るようになったのか?」

 近年ムーブメントが「何処製か?」ということが、その時計の価値を大きく左右するようになりました。少し前までは時計のブランド(オメガやロレックスなど)そのものが価値判断基準の大部分を占めていました。つまり中の機械が良いか悪いかの判断は、ブランドイメージに依存するところが非常に大きく、価格はそれに比例していたと言えます。「ロレックスだから良い」のであって「ブレゲひげだから良い」とか「ミーンタイムスクリューが付いているから良い」(これも単純な価値観ですが)という機械そのものを評価する概念が無かった(一般的に、という意味で)のではないでしょうか?もっと言えば中の機械に関心など無かったと。

 ところが、いくつかのブランドは自社の時計に採用しているムーブメントをアピールし価値を引き上げようとするようになり、また雑誌での取り上げ方もムーブメントの重要性を強調するようになってきました。例えば、ゼニスは自社開発の「エルプリメロ」という自動巻きクロノグラフムーブメントを持っています。これは量産品では唯一と言える10振動というハイビートの機械です。また暫くロレックス「デイトナ」に搭載されていました。これがある時期から有名になり人気が出てきます。それがメーカーの戦略だったのか雑誌から火がついたのか口コミで広まったのか私の知るところではありませんが、その後LVMHグループに吸収されると一気に価格が跳ね上がりました。これはムーブメントの特殊性を「売り」にした典型的な値上げではないかと思います。

 いつしか我々消費者はムーブメントそのものに興味を持つようになり、どの時計に何処のムーブメントが入っているかとか、何処のムーブメントが希少だとか、○○な特徴があるとかを気にするようになりました。次第にムーブメントの勢力図みたいなものが見えてくると、ETAは安いとか、クロノはレマニアがいいとか、ジャガーやフレデリック・ピゲは高級品というような格付けがされ、時計そのもののブランドイメージに勝るとも劣らない価値観が生まれました。
 これに対しメーカーは様々な対応をとります。ゼニスの「エルプリメロ」のようにもともとムーブメント自体の評価が高い時計は、そのことをアピールし価値を高めようとします。ETAの量産ムーブメント(市場が「安いもの」と評価している機械)を搭載しているところの対応は、
 1.搭載している機械を隠す。
 2.(少しでも)手を加えて自社ムーブメント風の名前を付ける。
 3.安さを「売り」にする。
 4.ETAに吸収される前の名称(バルジュー、プゾーなど)を使う。
などです。

 ETAの機械は確かに安いものが多いのですが、決して「安かろう悪かろう」ではなく、徹底した合理化によって実現したコストダウンの賜物です。機械式時計がここまで復活できたのは正にETAのお陰(国策とも言えますが)と言っても過言ではありません。
 しかし我々消費者がムーブメントの特徴や希少性に価値を見出したことで、ETAの機械が良くできたものであろうと、量産品故の「特徴や希少性の無さ」だけで、価値が否定されてしまうというのが現状です。今は更に進んで、ムーブメントの材質や細かな仕様(チラネジテンプやスワンネックなど)が価値の対象になってきています。シースルーバックの時計がこんなに多いのも、ムーブメントに対する消費者の関心の高さの表れだと思います。


 第2回以降では本来の時計の価値である「精度」とムーブメントの関係に迫ってみたいと思います。


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Last updated  2006.06.21 23:33:27
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