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2007.02.23
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カテゴリ:コラム
 最近やたらと時計が高い!趣味の時計集めが思うようにできません。こんな時はちょっと発想を変えて、新しい時計の情報収集は一休みして、機械に対する知識欲を満たすべく自ら勉強しながらコラムを始めたいと思います。
 最新の機械については雑誌などでも盛んに取り上げられているので、あえて役に立たない(!?)過去の技術について考えてみたいと思います。

第1回:バイメタル切りテンプについて
 いきなりですが、機械式時計の心臓部である「テンプ」について紹介します。先人たちが時計の精度を追い求める中で行き着いた、構造的に最も複雑だったと言えるのが「バイメタル切りテンプ」ではないでしょうか。100年くらい前の高級な懐中時計では当たり前のように使われていた技術で、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて盛んに使われましたが、現在ではこれを採用した時計は製造されておらず、完全に過去の技術と言えます。

イメージ 3
 このバイメタル切りテンプは温度変化を自己補正する機能を持たせたテンプのことで、温度によって慣性モーメントを変化させます。なぜこのような機能が必要だったのでしょうか?。金属にはそれぞれ固有の線膨張係数と弾性係数があり、一般的に金属は温度が上がれば膨張し軟らかくなり、温度が下がれば逆に収縮し硬くなります。これが時計の精度にどのような影響を与えるかと言うと、例えば温度が上がると、ひげゼンマイは弾性変化によって軟らかくなり時計を遅らせます(伸び(遅れ)もありますが、幅や厚さも増える(進み)ことで打ち消しあい、弾性変化に比して熱膨張の影響はほとんどないようです)。またテンプは熱膨張により天輪が広がり、慣性モーメントが増大してやはり遅れます。温度が関係する精度への影響はこれだけではありませんが、特にひげゼンマイの弾性変化による影響は思いの他大きく、弾性変化自体を補正することができないため、別の部分でこれを打ち消す対策が必要でした。そこで考えられたのが「バイメタル切りテンプ」で、テンプの慣性モーメントをひげゼンマイの弾性変化を打ち消す方向に作用させるというものです。

 バイメタル切りテンプの構造を下図に示します。図の青い部分が鋼でその外側に鋼よりも線膨張係数が大きい(伸びが大きい)真鍮などを貼り付けた「バイメタル」になっています。(「バイメタル」は現在でも機械式の温度計などに利用されています)
バイメタル切りテンプ
 Aは通常の状態で、年間を通して平均的な気温(あくまで想定で)にあるときの状態と考えます。そこから温度が上がるとBの状態になります。外側の真鍮の方が鋼より伸びるので天輪は腕付近を起点に内側に曲がります。内側に曲がることで天輪の平均直径が小さくなり、慣性モーメントを減少させ、時計を進み方向に補正します。当然温度が下がった場合は全く逆の動きをします。そしてチラネジを付ける位置を調整することで温度補正の効果をコントロールできます(腕から遠いところにチラネジを多く付けると補正効果が大きくなります)。
 
 さて、この「バイメタル切りテンプ」、一見良いことずくめのようですが、欠点もあります。
 欠点と現在使われていない理由については次回書いてみたいと思います。



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Last updated  2007.02.23 23:15:07
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