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2007.03.11
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カテゴリ:コラム
 最近やたらと時計が高い!趣味の時計集めが思うようにできません。こんな時はちょっと発想を変えて、新しい時計の情報収集は一休みして、機械に対する知識欲を満たすべく自ら勉強しながらコラムを始めたいと思います。
 最新の機械については雑誌などでも盛んに取り上げられているので、あえて役に立たない(!?)過去の技術について考えてみたいと思います。


前回までの内容


第2回:バイメタル切りテンプについて その2
 前回紹介した通り、バイメタル切りテンプによって温度補正の問題は大きく改善されたことは事実であると思います。しかし結果としてこのテンプは淘汰され、現在は(私の知る限り)全く使われなくなりました。なぜか?
 まず製作に大変な手間がかかり、調整も非常に難しいということです(私のような機械好きには「美点」以外の何者でもないのですが^^;)。写真や構造(前回のコラムを参照)を見ればお解かりかと思いますが、これが直径10~15mm程度の完全にバランスが取れたものでなければならないと思うと、とても手間のかかる、高度な職人技を要するものであったことは想像に難くありません。そして目的である「温度補正」の効果を出すためには様々な温度で適切な補正がかかるような調整をしなければなりません。つまりある温度で最適なバランスが出ても、それが別の温度でも最適とは限らず、何回も様々な温度でチェックしては調整し、またチェックして...という、気の遠くなるような調整が必要でした。
 また、温度変化によるひげゼンマイの弾性変化の曲線と、切りテンプの慣性モーメントの変化の曲線が同じカーブを持たないため、あらゆる温度域を満足する調整は不可能でした。それ故調整はせいぜい実用域での上下2点程度の温度でしか調整しないというのが一般的だったようです。古い高級な懐中時計のムーブメントに「Adjusted8positions」などと書いてあったりします。これは6姿勢+2温度で調整したという意味だそうですが、これ以上の調整数(9とか10)が記されたものは皆無のようで、つまり温度の調整は2点より多くしても意味がなかった(または不可能だった)ようです。

 そして時計にとって後に革命をもたらす特殊な金属が発明されます。
 一つは1897年にフランス系スイス人の物理学者「シャルル・エドワール・ギヨーム」によって発明された「インバー」という合金です。これはニッケル36%、鉄64%の合金で熱による体積変化が極めて小さいという性質を持ちます。そしてもう一つが1914年同氏により発明された「エリンバー」合金です。こちらはニッケル36%、鉄52%、コバルト12%の合金で熱による弾性変化が極めて小さいという性質を持ちます。(各成分は主なもののみ)
 最終的にはエリンバー合金のひげゼンマイとインバー合金のテンプを使用することで「バイメタル切りテンプ」のような面倒なテンプを使わずとも温度補正の問題がほぼ解決されたわけです。この二つの合金が発明された時点で、「バイメタル切りテンプ」の存在価値は無くなったと言えるでしょう。そして現在もこれらの合金は使われていますが、様々な研究により更に変化率の小さい合金、耐磁性の高い合金などが開発されたり、最近ではシリコン素材のひげゼンマイやセラミック、水晶などのテンプも登場し、メーカー間の熾烈な開発競争が続いています。

 インバー合金が発明されてからエリンバー合金がひげゼンマイに利用されるようになるまでの短い期間に、俗に「ギョームバランス」と呼ばれる特殊な切りテンプが存在しました。バイメタル切りテンプの一種ですが、バイメタルの鋼の部分にインバー系の合金を使うことで通常のバイメタル切りテンプとは異なる特性を持ったテンプで、温度による慣性モーメントの変化を、よりひげゼンマイの弾性変化の曲線に近づけたものだったようです。天輪の切れ込みの位置の違いで一応は見分けることはできます。天文台コンクールに出すような高精度の機械にしか採用されなかったようなのでそれなりに効果があったものと考えるのが妥当ですが、狙った精度を出すには限られた職人の、それは大変な調整が必要だったのではないかと想像できます。

 ギョームバランスなどはめったにお目にかかれませんが、普通のバイメタル切りテンプはそれこそお手軽価格で簡単に入手することができます。現在の(性能はいいかもしれないけど)単純構造のテンプより、遥かに手間が掛けられたこれらのテンプには堪らない魅力が溢れています。




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Last updated  2007.03.11 18:17:19
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