カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
今夜の映画は、貧乏臭さ全開だけど、瑞々しい青春映画、
半世紀ほど前の埼玉県川口市の鋳物工場街を舞台にした作品‥‥ と書けば、50代以降の映画ファンの方々はピーンときますね。 '62年日活、浦山桐郎監督、吉永小百合主演の「キューポラのある街」です。 中学三年生のジュン(吉永小百合)は、鋳物工場の昔気質の職工の父(東野英治郎)、母(杉山とく子)、2人の弟と、貧しい長屋暮らし。 母が四人目の子を出産したその日、父は人員整理で工場をクビになり、一家に大きな暗雲が差す。 ジュンの目下の夢は高校進学なのだが、この分ではそれも難しい。 パチンコ店のアルバイトで高校進学の費用を稼ごうとするのだが、 ワルガキの上の弟タカユキが、街のチンピラの悪事の片棒を担がせられたり、 級友の父親のツテでやっと再就職できた親父が、勝手に勤めをやめたりと、 ジュンの目の前には、障害が次から次へと‥‥ 職人気質ゆえプライドが高く、昼間から飲んだくれ、とてつもないワンマンで平気で妻子を殴りとばす父親。 経済的な事情で高校進学の夢を諦めかける少女。 パチンコ屋でアルバイトをする女子中学生。 病気の母のために牛乳配達をする少年。 小遣い稼ぎのために、鳩を売り買いし、それに失敗すると、チンピラヤクザから屑鉄拾いを手伝わされる小学生。 貧乏の臭いが軒先からぷんぷん漂う長屋。 ‥‥今の若い人たちが見たら、SFの世界でしょう。 モイラがこの映画を観たのはかなり前(高校生の時)だけど、 パチンコ屋でバイトする中学生なんて、まわりにはいませんでした。 でもそんな貧しくて、絶望的な状態の中でも、 たくましく生き抜き、明るさを忘れないジュンの姿が、とても素敵でした。 このジュンという娘、いわゆる貧乏臭いお話にありがちな悲劇のヒロイン的な要素を、 あきれるほど持ち合わせていないんですよね。 父親の理不尽な言動に対して、かなりきつい言葉で言いたいことを言いまくるし(挙句にもっと親父から殴られるのですが)、 家計のために飲み屋勤めを始めた母親にも、「何さ母ちゃん、いやらしいよッ!」なんてことを平気で言います。 それが、ともすれば暗~くみじめったらしいお話になりがちなこの手の作品を、 明るく溌剌とした青春ドラマに仕立てているのです。 もっとすごいのは、この映画、在日韓国・朝鮮人問題を、かなり真正面から取り上げている点です。 ジュンやタカユキの友だちに在日の子どもたちがいますが、 タカユキがその友だちと喧嘩する時に投げかけた言葉が、「バカ野郎、チョーセン!」。 なんとまあダイレクトな罵詈雑言! でも言われた在日の子も負けません。即座に「何をこのチンピラ!」と言い返すのです。 それがなんとも清々しかったですね。差別感のかけらも感じさせなくて。 それと、圧倒されたのは、ジュンが初潮を迎えるシーン。 荒川土手の鉄橋の下で、人目を気にしながらスカートをめくった時の吉永小百合の恐怖にゆがんだあの表情と、鉄橋を走る電車の音の交錯‥‥ 浦山監督の演出、恐るべしです。 若き吉永小百合の代表作といわれる本作、脚本は浦山監督と今村昌平氏。 日本の青春映画の金字塔と言える名作でしょう。 にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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