カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
深沢七郎の直木賞受賞作「楢山節考」は、過去に2度映画化され、
'58年度の木下恵介監督作品もかなり評価が高いですが、 モイラはカンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた今村昌平監督作品のほうが、好きといいますが、 モイラのテイストにマッチしているのです。 東北の山また山に囲まれた寒村。 生存条件の厳しいその村では、年老いた人々は、長男に背負われて「楢山参り」をする習わしがあった。 「楢山参り」‥‥それは俗に言う姥捨て。 70歳が間近のおりん(坂本スミ子)は、まだまだ十分働け、歯も丈夫だったが、 楢山参りをむしろ心待ちにしているふうだった。 そんな老母の姿に、息子の辰平(緒形拳)は複雑な思い。 しかし、やがて「その日」は近づいてくる‥‥ 今村作品では、深沢氏原作の「東北の神武たち」も原作にしています。 次男坊は完全な飼い殺しで嫁さえももらえないが、 筆おろしをさせてくれる女が現れ、ひと騒動という笑えるお話で、 これが、ともすれば陰鬱なだけになりがちな作品に、明るさを添えていましたね。 飼い殺し次男坊ではずれ者の左とん平も、 生まれて初めてスクリーンでヌードを披露した清川虹子も、名演技! 左さんとのベッドシーンのあと、「使やあ使えるもんだなあ‥‥」としみじみつぶやく清川さんに、館内は爆笑でした。 木下楢山は、ヒューマニズムを前面に押し出しすぎ、メロドラマ色が濃かったですが、 今村楢山は、人間の性、生、そして死を深く抉り出すように描いていましたね。 青空の下で抱擁する若い男女の横で、蛇が交尾をする場面などは、 人間だって動物にすぎないんだなと、つくづく思わされました。 若い男女の躍動する性、貧しいながらもたくましく小ずるく暮す人々の生、 そして‥‥年老いて息子に背負われ、山に行く死。 楢山での息子と老母の別れのシーンには、涙があふれました。 愛するわが子の手で山に捨てられることを恨みもしない老母。 本心とは裏腹に、集落全体のために、「ひとり生まれたら、ひとり死にに行く」という掟を守る息子。 姨捨伝説は日本各地にあるようですが、 昔は生きることそのものが、それほどまでに苛酷だったんですね‥‥ 話はちょっと違うけど、グリム兄弟の「ヘンゼルとグレーテル」の物語は、 当時ヨーロッパで公然と行われていた子捨て伝説を題材にしているそうです。 かつて貧困のために、多くの子どもが森の中に捨てられたとか‥‥ 姥捨て伝説に似たような話は、洋の東西を問わないんですね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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