カテゴリ:独断と偏見に満ちた映画評
もう半世紀以上前の作品ですが、
人間の罪や良心というものを鋭く問いかけ、 贖罪に生きる一人の人間の気高い精神を描いた、ハリウッドの秀作があります。 題名は「聖衣」 1953年度のヘンリー・コスター監督、リチャード・バートン、ビクター・マチュア、ジーン・シモンズといった豪華キャストの出演です。 DVD 聖衣 原題:THE ROBE 時は紀元後まもなくのエルサレム。 ローマ帝国の若き将校(バートン)は、民衆に愛と罪の赦しを説いたナザレの大工の処刑に加担した。 手足を太い釘で十字架に打ち付けられながらも、「父を彼らを赦したまえ」と呟く大工の足元で、 将校は賭けをして、大工が着ていた緋色の衣を手にいれた。 ところが彼がその緋色の衣をひとたびまとうや、 大工の手足に釘を打ちつけた時の音が耳元で響き、衣は彼の身体をしめつけるのだった‥‥ 支配者であるローマ帝国のエリートの長男として生まれ、 自らもエリート街道を歩み、女や酒、賭け事といったこの世の快楽に溺れていた青年が、 愛と赦しを説いただけの、なんの罪もない人を殺した(しかも民衆からは救世主と呼ばれていた人を!)良心の呵責に苦しみもだえ、 やがて、大工の一番弟子だったペテロや、実直で敬虔な老職工、 立つこともできない体なのに、いつも神への賛美に顔を輝かせている乙女ミリアムなどに出会ううちに、心が砕かれ、 「クリスチャンたちを根絶やしにせよ」という皇帝の命に逆らい、 自らクリスチャンとなる過程が、キリスト教の知識があまりない人にも、実によく頷けます。 十字架につけられる大工の顔が映らない手法は、のちのチャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」でも、とられていました。 ハリウッドの史劇らしく、スペクタクル的要素も強く、 ゴルゴタの丘、古代エルサレムやローマの町並みなどの再現が素晴らしかったです。 近年のCGによる再現にはない(あれはまるでゲームの背景)、手作りの重厚さが感じられます。 しかし、撮影セットより素晴らしいのは、人間描写。 罪の意識にさいなまれ、苦悶する主人公は、 私であり、あなたであり、この世のすべての人の姿なのです。 「キリスト教系の映画ねえ‥‥」「宗教色の強い映画はちょっと‥‥」と言われる方、 この作品は、決してキリスト教宣伝映画でも、宗教映画でもありません。 「人としての良心」「苦悶をのりこえて得られた心の平安」を、 一人の人間の姿を通して描いた人間ドラマです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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