【粗筋】
助けた狸の子が恩返しにやってきた。男はさいころに化けさせた。試しに振ってみると1ばかり出る。
「1がいちばん出しやすいんです」
「どうして」
「逆立ちして尻の穴ですから」
「2は目玉じゃねえのかい」
「当たった」
これを持って賭場へ出掛ける。賽の目を言うとその通り出るので、仲間達がおかしく思って目を読んではならないと言い出した。次は5が出れば親の総取りなのだが、
「ほら、あれだよ、梅鉢の紋だ。天神さまだよ……勝負ッ」
壺を開くと狸が笏持って突っ張ってた。
【成立】
1763(宝暦13)年『軽口太平楽』の「狸の同類」、1773(安永2)年『再生餅』の「きつね」などが原話と思われる。同安永2年の『近目貫』、同8年の『金財布』の「狐」では、調子に乗った男が庭の梅をほめると、中で鶯に化けている。題名で分かる通り、狐が主人公のものも。
オムニバスで演じる狸の恩返し噺の落ちとして代表的なもの。代々小さん系に伝わるが、柳家小さん(5)が、狸を助ける場面、狸とのやりとり、合図の打合せなど、細かい演出をほどこしている。落ちで、狸が天神様の恰好をするのを姿だけで見せる「仕種落ち」で演じているのも小さんだけだった。本によれば、上方ではこちらが普通らしい。
【一言】
登場人物の料簡になれ、という一語につきますね。なにも人物ばかりじゃない。あっしはネ、『狸賽』を教わったときに、師匠(小さん(4))に狸の料簡にならなきゃいけねえって仕込まれた。そりゃ狸の料簡なんてわかるわけがない。わかるわけがないろところを想像してみることがだいじなんですね。もし狸が口をきくとしたらどうなるか。きっと、ちゃんとした言葉はつかえなくて、語尾があいまいに消えたりなんかするんじゃねえか。そいで、人間に化けないうちは手をにぎって前におくとか、それで目だけがキョロキョロおちつかないだろう。そういうふうなことを想像して、自分がそうなった気分でもってやるわけです。(柳家小さん(5))
【蘊蓄】
ここでの博奕「チョボ一(樗蒲一)」は、出る目を当てると、掛け金の4倍がもらえるという単純な博奕で、さいころ博奕の元祖と思われる。