【粗筋】
色々な布を手に入れて煙草入れを作っている趣味の人がいる。見せてもらうと、源平の合戦の折に平実盛が着ていた錦の直垂の切れ端、曽我の五郎の半切の布、牛若丸の袴の裾……と、由緒あるものばかり。
「よくお集めになられた。して、どちらで手に入れたのか、お聞かせ下され」
「いや、みんな人形屋でもらってきました」
【成立】
明和9(1772)年『鹿の子餅』の「煙草入」。
【蘊蓄】
『続飛鳥川』には、「刻たばこ売、10匁8文」と値段が出ている。
貞享の頃(1684~88)までは店で売っていたが、元禄頃(1688~1704)から売り歩くようになり、元文の頃には江戸中に広まったと『我衣』にある。次のは『口拍子』(安永2(1773))の噺。
葉煙草葉煙草と売り歩くのをつかまえ、
「コレ、煙草見せろ」「サ、ごろうじませ」
「いくらだ」「1斤64文」
「ソレハとんだことだ。なぜそのように安いぞ」
「ハイ、これは二月の火事に、蔵に火が入りまして、そのときの焼け残りゆえ、のけ物に致しての安売り」「そんな火付きの悪いのは、嫌だ嫌だ」
『塵塚談』には「我等十二才頃迄は、五分切りというて荒く刻むのを伊達にせしに、近年は至って細く糸の如くに刻むなり。四五年巳来(いらい=原文のまま)はその上に細かになり、こすりとかいふを賞翫(しょうがん)す」とある。