【粗筋】
縞の合羽に三度笠といういで立ちの新次郎、箱根の山を越えようとした振り出した雨に雨宿り。声を掛けた男が「旅は道連れ、同道いたしましょう」と言う。断って逃げ出そうとするが、「新次郎さん、一緒に参らねばならいんですよ」と言われる。この男、閻魔の庁の槌平(つちへい)と名乗り、新次郎がこの山中で死んで、あの世へ行くことになったと言うのだ。男は閻魔の召し状を出し、「江戸生まれ新次郎、この度寿命尽き候えば、来庁の儀きっと申し付くるものなり」と読み上げる。確かに閻魔の花押も押してある……見たことないけど……
「俺は死んで、閻魔の前に引き出され、極楽か地獄へ送られるのかい」
「ああ、あなたは間違いなく地獄行きで。請け負います」
新次郎、相手が下級役人だと見抜き、だまして焼酎を飲ませ、こちらの言うことを聞かせる。同い年の男を身代わりにあの世へ連れていくということになった。新次郎、元は雪駄作りの職人で、親方の娘おふさと恋仲だったが、色男の和吉にだまされて新次郎を捨てたのだ。新次郎がやくざに身を落としたものこれが原因。和吉が後を継いでいるが、作った雪駄の出来が悪く、十に四つは使えない。女房が問屋から苦情を言われ、家に帰ると口喧嘩……この和吉が同い年なのだ。これでおふさも救われる。人間に姿の見えぬ新次郎、通り掛かった侍に泥を投げつけ、和吉を無礼討ちにさせる。ところが、おふさが現れ、死骸にすがって泣きわめき、一緒に殺してくれと言い、無礼討ちに殺される。その姿を見て、新次郎は槌平に行こうと声を掛ける。二人が去ると、和吉とおふさが息を吹き返し、傷一つないのでぽかんとしている。
「新さん、待ってくれ」
「お前が俺を引っ立てるんだろう」
「せめて牛をご馳走になってから」
「未練たらしい。観念しろい」
「どうしても同道しなきゃいけませんか」
「ああ、旅は道連れというじゃねえか」
【成立】
榎本滋民作、昭和43(1968)年9月の東京落語会で金原亭馬之助により初演。
『今昔物語』巻20第19をもとにした噺で、原作は閻魔の役人が賄賂に牛肉をご馳走になると別の者を殺して連れて行き、助かった男は90歳まで生きたという話。