【粗筋】
隣町には次郎兵衛狸というのがいて、芝居の真似をしたという言い伝えがある。子供がこの町には何かないのかと聞かれた秀、今でも雨の夜になるとだんじりを叩く「だんじり狸」というのがいると言った。そんな狸がいる訳もなく、仕方なく友達の米と勝に頼んで三人で出掛けた。
たに雨が降ればいいのだが、数日雨が続くとさすがに辛くなり、米と勝は嫌がるようになった。仕方なく秀が一人で出掛け、大雨の中でだんじりをやったので風邪をひいて寝込んでしまう。秀は二人にやってくれるよう頼むが、米も勝も断って逃げてしまう。
が飲み屋に行くと、遠くでだんじりが聞こえる。二人でやっているらしいので、
「ああ、勝の奴が行ってやったんやな。わしも行ってやりゃあ良かったかな。まあええわ。明日あやまったらしまいや」
博打場にいる勝もこの音を聞いて、
「何や、米と秀やな。米も気のきかんやっちゃな。秀は病気やないか。俺に一緒に行こうと言うてくれれば行かんでもないのに……」
秀が布団の中で目を覚まして、
「ああ、だんじりや……わしの前では嫌やと言うてたが、二人で行ってくれたんやな。友達は有り難いな……しかし、うまいもんや。ほんまに狸が叩いてるようやないか……」
【成立】
小佐田定雄作。昭和59年(1984)年10月1日、桂べかこ(現・南光)により初演。大阪「だんじり囃子」の「♪チキチンチキチンチキチンコンコン……」というせわしない調子を取り込んだ噺。
【一言】
平成2(1990)年11月20日に大阪サンケイホールで開かれた独演会では、南光さん(当時は「べかこ」でした)がラストシーンで、月の中で腹鼓を打つ狸の姿をスライドで見せ、ビジュアルなサゲにして見せてくれたのを憶えています。(小佐田定雄・この男たちに共感を覚えた本当の狸が出て来たのだろうか、それとも、彼らの行為に感動を覚え、病気と知って何とかしてやろうとする他の人間なのだろうか……そういう雰囲気を残した落ちであった。スライドで狸を見せてしまっては、答えをはっきりさせた分、曖昧模糊とした雰囲気が壊されるようにも思われる。もちろん、それはそれで面白いのだが)