99:アンドーナッツ(あんどうなっつ)
【粗筋】 前座時代は苦労ばかり、昔は貧乏で、師匠の家に行って食事をもらうのが楽しみだった。ある夜、少し金があるので、贅沢をしてアンドーナッツを食べることにした。ドーナッツは嫌いだった。穴が開いているのが損をするように思えたのだ。だから竹輪も嫌い。その日はパン屋さんに出来立てのアンドーナッツが並んだ瞬間だった。生涯あるかないかの散財で3個も買ってしまった。頭の中が100%アンドーナッツに行ってしまい、車が来たのに気付かない。車にはねられたが、自分の体は大丈夫だったようで、アンドーナッツの行方だけが心配。一つは道路で内臓破裂、もう一つはガードレールで複雑骨折。最後の一つは行方不明。運転していたのが外国人で、何を言っているのか分からない。お巡りさんが来て、「病院で検査をした方がいいって言ってる……と思うんだ」 その時慰謝料としてアンドーナッツの代金をもらえばよかった。それからの人生で、あのような出来立て、熱々のアンドーナッツに巡り合うことはなかった。 「食べたかったアンドーナッツ」というお笑いでごさいました。【成立】 三遊亭円丈の創作落語……本人は漫談と言っている。二ツ目になったばかりの頃に実体験をまとめ、1982年から演った。あれは面白かったと言われるが、台本は無くなっている。2017年、本を出すことになって、思い出しながら再構成したもの。