ベートーヴェン:「合唱の意外な展開」
「台風の影響から、喘息が出てのたうち回っている」「いよいよおしまいかな……ということで、書き込みが滞っている言い訳はおしまい」「さあ、それでは『合唱』を改めて聞き直してみよう」 ベートーヴェン:「合唱の意外な展開」 改めて第一楽章をちゃんと聞いてみよう。第1楽章 Allegro ma non troppo, un poco maestoso ニ短調 4分の2拍子提示部(1小節から)同じ音を繰り返す上に分散和音が聞こえ始める。ところが、鳴っている音はEとA、そこに同じ音の分散和音がなる。これはイ長調ならドソド、イ短調ならラミラという音で長調か短調か分からない。不安を感じさせるのだ。リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭のドソドという上昇する和音が神性を表すものに対して、ベートーヴェンのこの分散和音は混沌を表すとされている。これも当然後から作られた話。EとAだけで進むが、Aだけのオクターブになると、AとD、つまりニ短調に変わる。ここでベートーヴェンお得意の1オクターブ音型が出ているのも要注意。 これでやっと前回説明した第一主題になるのだ。(37)最初と同じことを始めるが、今度はニ短調から始まって第一主題になるときにはト短調に変わる。 主題B1の後半音型を積み重ねる「運命」的展開からすぐに長調になる。 DとCを組み合わせたようなこんな主題も登場する。展開が全く読めないのだ。 第二主題前にはEから発展したメロディが流れるが、明らかに「歓喜に寄す」である。(80)変ロ長調で第二主題が始まり、「歓喜に寄す」に近いメロディも登場。第1主題の様々な動機を使った複雑なものである。 DとEを使ったこんな主題も。A音型をE音型風にして分散和音にした堂々たる音型で終止する。展開部(164)冒頭と同じように分散和音から始まる。イ短調だが、分散和音の中でニ短調、ト短調へと変化する。ここも第1主題の動機が次から次と出るがどんどん組み合わせ方が変わるのでついていけない場面である。 譜面は最初の主題B前半の積み重ねからCにつながる部分。 こちらはBの後半の積み重ね。 これだけの複雑な展開が、一般には「第一主題を様々に展開する」の一言で済まされてしまっている訳だ。だからちゃんと聞いていると難しくて訳が分からなくなるのだ。再現部(301)導入部の分散和音がニ短調で力強く演奏され、オクターブ音型も出るのに、そのままニ短調で第1主題が提示される。その後の展開はかなり省略され、345小節で第2主題が戻るが、その後は提示部とほとんど同じ。結尾部(428)導入部の分散和音がメロディ風に演奏される。展開部で見た形である。ここも第1主題の動機が扱われるが、まだ新しい組み合わせが出るのだ。最後は低弦に出るオクターブが印象的。昇る音階が示されると、第1主題のB音型が鳴り出すが、2小節でプツッと切れて終止する。まだこれからと思ったらそれで終わるというのもベートーヴェンのお得意のパターンである。