序章~邂逅1
雑踏と喧騒のアリアンにしてはいつも人通りの少ないこの場所が今のあたしのねぐらになっている。 かつて一緒に戦場を駆け巡ってきた仲間が今のあたしを見ても決して声をかけたりしないだろう。 何しろ今のあたしときたら朝から深夜、そして早朝までお酒を浴び、その御足がなくなると北ガディウス辺りの雑魚モンスターを倒し奪った小金でまた延々と呑むという生活なのだ。 自慢だったさらさらのプラチナブロンドも、同性すら見惚れる鍛え上げられた躰も、皮脂と砂にまみれべとべと、自らもわかる異臭を放っているほど。。。 ただ皮肉なことに【赤の悪魔の末裔】と恐れ忌み嫌われた双眸はどす黒く沈色し「これなら誰に見られても平気だな」と自嘲する余裕もあったりする。 なぜ未だにこの左手のスクリューと(手入れさえすれば)すれ違うすべての者が振り返るほど光り輝くランスを失っていないのか解らないくらい。 この二つがあたしの心を酷く痛めつけているにもかかわらず。。。 「ほら」 彼がぶっきらぼうに渡してくれたそれは、あたしがずっとずっと前から夢見ていたランサーの最終装備といわれるスクリューフライアー、通称スクリューまたはSF。 鈍い真鍮色に輝いているそれは、槍というどうしても長く重く、つまり攻撃も遅くなってしまうあたし達の致命的な弱点を補って余りある、全ランサー憧れの品物だ。しかし同時にその価格はそれこそ雲を掴まなければならないほどで、あたしをはじめほとんどの同職は仕方なしにスクリューと比べたらそれこそゴミな【速度投擲機】と呼ばれる代替品で我慢している。 もっともあたしの実力ではそれで十分なのだが。。。 「へ?」 「へ? じゃねえよ。そんな投擲機じゃ、そのうち狩りすらできなくなるぞ」 そんなってのが妙にひっかっかたけど。 「いや、だって。。。こんなのどうしたのよ、1億以上するんだよ? 大体、あたしは左利きだし。。。。。。。。。。。。。。。ひゃえぇぇぇ!」 あたしとしたことが思い切り声を裏返し、思い切り叫んでしまう。 そう、彼の寄越した物は尋常では有り得ない左利き用。性能は普通のものと全く同じでもその異常な希少価値から【神品】とまで言われるものだった。 どれくらいの希少性かと言えば、五千機に一機、人によっては一万機に一機と推測されているくらい。。。よってこの価値は。。。 「。。。貰えない。」 いくらなんでもこんなビガプールの宝庫に保管されそうな物を廃坑地下九階の巨人相手に手こずっているあたしが装備していいはずもない。だからこそ夢見ていたのだ。 「いいんだ。拾ったから」 「ん? 今何と?」 「拾った。河口レで」 「んあ?」 先ほどからあたしは普段のあたしでなくなっている。 「河口って。。。あの河口? ドとレとミとラ。。。の?」 「レって言ったろ」 ??? 「なんだよ。俺がレに行っちゃ良くないか?」 「一人で?」 「ソロで」 「。。。」 河口ソロ。それはある意味成人式のようなもので、達成できれば一人前の冒険者として認められる。それだけに、かなりの実力と装備を備えた者でなければ為し得ないものなのだが。。。 「実力ってのは装備や見た目じゃ判らないものだよ」 くっそう。。。さらりと言ってのけやがった。。。 何となく腑に落ちないながらもスクリューに戻る。 「それはいい。けどこんなのあたしが貰ったところで宝の持ち腐れ。売ってしまいなさい。ビガプへ持っていけば一生不自由しないくらいのお金に代わるから」 「いや、それで一生お前と不自由のない暮らしができてもお前はそれで満足するような女じゃねえだろ」 「ちょっと。。。なにそれ」 こっの。。。そういうのありなの?