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カテゴリ:音楽
「歌追い人」という映画を先日レンタルで観ました。2000年公開の作品で、アイルランド移民の伝承歌を発見し、保存しようとする人の話です。 アメリカの開拓時代、妹の住むアパラチア山中の村を訪れた女性が、すでに失われたと思われていた200年前の歌が伝承されているのを知ります。女性は音楽の研究者だったのでそれを記録しようとしますが、社会から差別されていたアイリッシュ系移民の村人の心は固く排他的で、銃まで付きつけられます。 Songcatcher (2000) | Film4 Trailer(映画予告編) この映画は創作ドラマですが、そのモデルとなった人がいます。1900年初頭のオリーヴ・D・キャンベルというアメリカ女性の音楽研究者です。 この時代には消滅しかけているイングランド地方の古来の伝承音楽を研究・保存する運動が定着していました。その権威の学者セシル・シャープがイギリスから取材に来て、オリーヴと一緒に数カ月に渡り南アパラチア山地で民謡採集旅行を行います。彼の研究は歌詞だけでなく旋律も忠実に記録したことが高く評価されています。 当時、アイルランド移民は社会的には黒人と同レベルに扱われていたので、アパラチア地方で、閉鎖的に自活するしかなく、その結果、アイルランドの古くからの発音や文化が残ることになったようです。 シャープたちはこの地で1600曲近い曲を採取し、1917年にはオリーヴと共著で「南アパラチア地方からのイングランド民謡集」をニューヨークで出版します。 こうして、この地道な努力のおかげで多くの歌曲が今に残され、歌い継がれることになったのです。 ただ彼らが採取した曲はバラードやわらべ歌などの歌謡が主で、ダンス音楽や労働歌、聖歌、春歌などには対象でなかったので記録されませんでした。そのために大量の曲が消滅しましたが、ダンス音楽だけは「マウンテン・ミュージック」や「ヒルビリー」として人づってに伝わり、カントリーやブルーグラスなどに変容したそうです。これは後にロックン・ロールへと繋がったとも言われます。 このように、消えゆく伝承歌を記録し保存する人達の努力にまつわるエピソードは本土アイルランドでも残されています。「若者の夢」を採譜したエドワード・バンティングや、「ロンドンデリーの歌」を採譜したジェイン・ロスについてもネット上に克明に記されているので、そちらを参考にしていただくとして、今回は省かせたいただきます。 ただ重要なのは、歌以外にも古い良いものを大事に守るのは学者や研究者でなく一般庶民の役割です。なのでその気持ちは我々も持ち続けたいのですが、それを次世代にちゃんと伝えられるか?となると、それがなかなかに難しいもんなんですね。
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最終更新日
2023/12/30 12:07:28 AM
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