表参道、15分の邂逅。
早く着いちゃったな。そう思いながら、表参道で人を待っていた。いかにもな場所だった。そこら中に、人待ち顔の面々。 まさか、もう来てたりしないよね。と、その面々をぐるっと見渡した。その時、ひとりの男性と目が合った。東欧系の彼は、そちらの文化にふさわしく、目が合った瞬間に人懐っこい笑みを投げてきた。私も、それを投げ返してみた。時間にして0コンマ5秒。そして私は壁にもたれ、人待ち顔の面々にまぎれた。5分経過。 待ち人は、まだ来ない。10分経過。 まだ来ない。私が早く来すぎたのだ。もしかして、お互い見逃してる?そう思って、その辺を歩いてみた。やっぱりいないなぁ。と、その時。またさっきの男性と目が合った。もっと大きな笑みを投げかけられて、私のアタマにひらめいた名前。彼は、赤や黄色に彩られた、とってもカラフルな自転車を押しながら私の方に近寄ってくる。あぁ、やっぱりこの人だ。知ってる。数学者で、大道芸人で、たくさんの国の言葉を操る人。天が二物も三物も与えた人。こんにちは、と挨拶を交わした。(もちろん日本語だ) 「…○○さんですか?」「はい、そうです」 やっぱり。「…ユリさん。百に合う、っていう漢字ですか?」 「いいえ、…っていうんですけど」 「10ヶ国語をお話しになるんでしたっけ」「いいえ、12ヶ国語です」 「今は何語を?」「今はね、ヘブライ語を勉強してます」仕事、私の出身県(20回は行ったらしい)、今のレギュラー番組、最近大道芸をやった場所…喋り続けるあいだ、彼はまったく視線をそらさない。それにしても、何で私の出身地の通りやあの本屋の名前まで知っているのか。出身大学は「あ、そこは僕が初めて講演をした学校ですよ」おまけに、出身高校を答えると「あぁ、○○駅から2駅のところですね」絶句。この人のアタマの中はどうなっているんだろう。人懐っこい笑みを浮かべ、まっすぐ私の目を見て彼は話し続けた。それから優に15分。「もうそろそろ、お友達が来るでしょう?」彼はそう言って、私の手にキスをして去っていった。・・・12ヶ国語とは言わない、せめて英語だけでも話せるようにならないかな。その才能のひとかけらでも、残ってないかな。…そう、この手の甲あたりに。そして、待ち人はやって来た。