Once in a Blue Moon

父親の化学療法が始まった。

親父には『胃潰瘍になり易い体質だから、少しきつい薬を使うよ』

『2週間ぐらい、様子をみて退院できるか決めような』

と伝えて抗癌剤を使うことにした。

容態は徐々に良くなっているようで、本人も機嫌が良い。

病室を覗いた時にホッと安心する。

副作用はまだ出ていないようだ。

『もう直ぐ退院できるやろ・・・こんなに元気になったんやから』

この言葉が、一番辛い・・・・

『そやな～先生に聞いてみるわ』と言いながら・・・

ふと枕元を見ると"髪の毛が数本落ちている"・・・・

副作用かな？・・・出てきたな・・・

数日後、『あの薬を打つとお腹の調子が悪くて、辛いは・・・・』

私は、先生にお願いして、予定通り2週間で一旦『化学療法』を止めて

3週間目に退院させて欲しいとお願いした。

理由は『嘘をつき通す』自信が無かったから・・・・

一旦、退院して

私の口から親父に告知することを決めた。

親父の奥さんには、『分からないから任せると言われ・・・』

親父と疎遠の姉妹からは、

『もともと弱い人だと実の母から聞いているから、どうなるだろう？』

『あなたに、全て委ねて申し訳ないが、考えた通りにして下さい』

『難しい問題だけど、私たちもそれが良いと思うよ』と・・・

そして、時間と共に副作用は酷くなってきた。

『こんな薬はもう止めてくれ！』

『せっかく、調子が良かったのに・・・殺す気か？』

『我慢、我慢と医者も看護師も・・・皆・・』

『患者の気持ちが分からんのか・・・・お前は・・』

とうとう、やってきたこの日が・・・・

親父が気付き始めた・・・不安の中で

不安になれば人間の観察力は鋭くなる・・・

しかし、疑っていることも不安に思っていることも言わない。

事実を知ることが怖いから・・・・ただ怒り、当たり散らすだけ

私はこれを恐れていたのだ・・・

でも、仕方ない。この方法を選んだのだから・・・

『嫌やったら止めよ』

『辛いやろ・・』

『頑張らんで、ええんやで・・』

『もう十分効果があるやろ』

『先生にお願いしてくるは、心配せんでええからな・・』

そして数日後、親父は『最後まで化学療法をする』と言った・・・

予定通り、3週間目に退院した。

その時、髪の毛は薄くなり、痩せこけた身体は無残なものだった。

これからが、大変だ・・・・

どのタイミングで"告知"をすれば良いのか？

そして、何と言えば良いのだろうか？

お袋は、何と言って欲しかったのだろうか？

でも、日記に答えは書いていなかった・・・・

>>>>>>>　　つづく