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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2019年04月24日
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○ 綱吉公薨御の事(『翁草』巻之二「故諺記」)

宝永六年巳丑年正月十日、将軍綱吉公薨ず、即日被仰出趣、公方椋御麻疹段々御快、咋九日御機嫌能被為成御座候處、昨夜より俄に御差詰、御佗界被遊候、唯今迄の通、大納言様へ、御奉公可仕の旨、御遺言の由、老中大久保加賀守被申渡侯、或老翁云う、綱吉公(常憲院殿)始は文武空を宗とし玉ひ、さしも艮君の聞え普ねかりしに、中頃より女色を愛で玉ひ、聊か御政事等閑あるに似たり、御出頭の面々多き中に、柳澤彌太郎は、僅百五十俵の小士なるが、至て御旨に協はれ御大名に御取立有て、出羽守保明と親し、武州河越城主として、八寓石を給ふ、御側御用人の随一なりしが、次第に登庸して、松平姓をゆるされ、御諱字を賜ひ、甲州一国十五萬石拝領にて、従四位少将松平美濃守吉保と改名し、其職老中の上に立て大老に比し、威權天下に震ふ、又一僧あり是を御帰依甚く、護持院と云る新寺を御建立有て、彼僧を置かしむ、是又大に威を震ふ、渠が勤上奉るに依て、生類御憐の事を被仰出、就中戌の御年故犬を御寵愛有て、多く被集、其の奔走華麗醒耳目を驚す、此故に世上に於ても犬を大切に致し、犬は勿論すべて生類を過つ者は・忽死刑に処せられ、其の国風北條の末相撲入道の所行に似たり、万人眉を攣(ひそ)む、此事は色々の密記有て、夫々委しく録すれば爰に略す、實にも遠くは唐の玄宗、近くは相模入道宗鑑の風俗に彷彿たるが、爰にまた御陀界の事に就て、秘説あり、其の所以は、御養君家信公(文昭院殿)を被廃、松平美濃守に百萬石を被下、幼君輔佐の事を被任御催し御決定有て、既に表向御拉哲のらんとす、御臺所是を聞召し天下の大事なりとて、密に井伊掃部頭を被召、御密談の上、御用入横瀬何某を潜に召され、大切の御用有り、其方同役何某は筆頭なれば此御用を申付度物ながら、老人の事なり、老人にては此御用は執るべからす、此故に汝に是を附す、汝一命に懸て可勤哉との仰なり、横瀬謹んで御請申上る、其の時密事を被仰含、さて定例御対面の事は、御案内も有事成るに、其の儀なく其の夜不意に、公の御座所へ成らせらる、折柄公の御側には、御幼君御座して、御遊興の所へ、図らずも御臺所入らせ宝ふを御覧じて、公驚かせ宝ひ、こは如何して来り玉ふと上意あり、其の時御臺所威儀を正させ玉ひ御側の人を彿はせられ、宜ひけるは唯今参る事、余の養にも候はず、家音義と御不和の噂却、世に噂喧しくおはしょし候、家宣公に於て、いさゝか御不孝の事なし、是には御側近き者共のさかしらもある事に候、是と申も御幼君出来させ玉ふ故に、御父子の御中も疎く成らせらる、様に聞え候、是一天下の欺き、御一大事此上もなく候へば、家宣公と御隔なく、御したしみを偏に摘ひ候、幼君の事に付、自らの嫉より御諌に事寄せ、斯く申などゝ思召候歟、左様の心は露いさゝかかあらず、唯天下の御為を想ふの一筋に候と、かきくどかせ玉ふ處に、公御気色替らせ玉ひ、其の事は女儀のいろひ玉ふ事にあらずと仰られ、一向に御許容なきを御覧じて、兼ねて期せられし事なれば、それ横瀬と御聲かゝると等しく、様瀬如何して紛入けん、御座近く忍び居たりしが飛出御幼君の何心なく、遊び居玉ふを引抱き奉りて、一さんに駈出す、公太く忿(いか)り玉ひ、己れ狼籍者と、御名佩刀を放せ玉ふ虚を、御臺所抱き留させ玉ひ、御懐剣を以て公に触れ玉へば、御念力徹て即座に薨御御臺所も御懐剣を取直させ玉ひ、直に薨御と云て斯て横瀬は、幼君を抱取奉て、御丸の内を抜出で、馬に飛乗り、一さんに井伊の屋敷へ駈着き、門を荒らかにたゝく、揃部頭待設られし事なれば、早速門を開かせ、横瀬を請じ入れ、無比類働を賞美し、幼君を被請取、呼此御墓所の御事、本朝烈女の最一共云べきか、近世細川忠興の重宝は、明智光秀が娘にて、慶長五年大阪に於て、生害の始末、能く事盤ひて其功高し、され共是は亡親の汚名を雪がんとの赤心、武門に生まれては、女子たり共斯あるべし、殊に千戈の動く代なれば、人の心もさもありなん、此御臺所は、摂関の深窓に長ならせ給ひて、久敷論まれる御代に、斯る御擧動、事々物々道に協ひ、贋大の至功この上なかるべし、惜しい哉烈女侍にあけんとすれば、事にさはり有て記しがたき事を、右は或人の秘庫に此記ありとて、其の人言語れるを、恐れを不顧、潜に著す、猶も委に至ては、記録を見すべしとの約ありしに、其の人もはや世を去ぬればいたづらに止ぬ
 私に曰、此説の如き御臺所の御諫諷を誰か斯様に詳に承給て漏らしけるにや、是は前條に述る如く、其の事を奉察て諸る成べし、實にも其の頃の危き事は、爰に記す通違ひなかりし事なれば、思召詰られての事ならん、然れば本文に書る所も、あたらずと云へども遠からざるべし、云々

○ 綱吉公薨御 御臺所薨逝の事
家信公は希世の賢君にて坐しませば、西丸入御の後は、尚々御行状正しく、御孝心を宗とし給う故に、吉保の徒は、此御治政に成ならば、吾輩安穏なることば非じし後日の患を恐怖して、ひたすらに家宣公の御事をぞ讒しける、素より公は御幼君出来させ給う後は、一人家宣を疎(うと)み給い、其の上御老後酒淫に長じ給う故にや、舊の冬より御不例容易ならぬ御気色なれば、御心せかれて所詮急速に家宣公を廃せられ、幼君に御代を譲らせられ、吉保を大身に御取り立て、天下の輔佐を被任んとの臺意御治定の由、世上の流布頻なり、
頃は宝永六年早春の事なるか、来る十一日御鏡開きの節、御披露ありと、誰云うとも無く沙汰するを、御臺所ひそかに聞き召して、兼て被期御事なれば、潜に井伊掃部頭直輿を召し、御側の人を除られ、御直に被仰含旨有り、直興、敬伏して是れを奉り退去せらる、次に御臺所御用人、横瀬某を召し、是亦、直輿同前、御用被仰せ付け、横瀬是を奉り御前を立つ、最も御密事故に、其の所以て知る人無し、其の夜御臺所は公の御座所へ御成有りて御人拂いにて、数刻在せらるゝ内に、公御不例勝れさせ不給う、直に御急変の御事故、世には色々風聞せり、奥秘の事。爭実否を知らんや、是に於いて停筆。
 秘説に曰く、常憲院殿綱吉公纔(わずか)の為に家宣公を被廃、松平美濃守吉保に百万石を賜い、幼君の輔弼に可被任御催し御治定有りて、既に発覚せんとす、御臺所之を聞き召し、是は天下の大事なりとて、密かに井伊直興を召して宜しく、常時直興に非ずして誰にか托せん、今大事に至れり、将に妾が身を以て是に換ん、其の余の事は汝に附す、相構えて穏に執り計るべしと、御密意をつまびらかに曉し給えば、直興感涙に咽(むせ)んで仰を奉り、敬諾して退去せらる、次に御臺所の御用人横瀬某を潜に召れ、懸命の御用有り、其方同役何某は筆頭なれば申付度物ながら、老人の事なり、老人にてはあやうし、汝一命に掛て成すべきやとの仰也、横瀬畏て、斯る一大事の御意を奉りて、何しに一命を顧み候べき、如何様の御用たり共、違背仕まじと申し上る、其の時御密意を仰付らる、横瀬慎みて奉之、御前を立て用意をなす、さて定例御臺所の入せらるゝ節は御先へ御案内有る事なるに、其の儀なく、その夜不意に公の御座所へ成せらる、折節御不例も少し勝れさせ給ふ御様子にて、御前に御幼君在して、御心を慰さませ給ふ所へ、図らずも御臺所の入らせ給うを、御覧有りて、こは如何にと宜う、其の時御臺所威儀を正させ給ひ、御不例の御心地を伺い給い、さて御側の人を拂われ、御諷諫細やかに述させ給へば、公卿不與の御気色にて、斯ろ事は女儀のいろひ給う事に非ずと宜うを、ひたすら大天下の御為に候と繰返して仰ければ、大に御気色損じ、迚(とて)も御許容の色無きを御覧じて、兼ねて御覚悟の事なれば、それ横瀬と御声の掛るとひとしく、如何して紛入けん、横瀬は御座の間の傍より飛出て、劫第の何心無く遊居給うを、搔き抱き奉り、一散んに駈出す、公大に怒り給ひ、己れ狼藉者と御佩刀を取んとし給へ共、永々の御違例に、心神衰へさせ給い、御心の儘ならざるを、御臺所も其の刃を取り直され、御懐剣を以て公に触れ給へば、御念力徹りて、即座に薨去、御臺所も、御刃取出され、直に御逝去と云々、又一説には、御跡を取繕ばれ、何角の御指揮相済御一問へ帰らせ給い、御心閉かに御生涯共去り、兼ねて御臺所の腹心と頼み思召ける、御年寄女中(闕名)最も閑に御次へ立出で、追付、井伊掃部頭出仕有べし、掃部頭指図有までは、各御座の間へ立ち入るべからず制するにより、各怪しとは思へ共、御臺の仰なれば、流石に違背に難及、各御次に控え居て、井伊掃部摘出仕を待つ。(続く)









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最終更新日  2021年04月24日 06時41分21秒
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