カテゴリ:富士山資料室
富土石と富士講 その三 富士浅間神社-せんげん考 大淵紀元氏著 『伊那』 1986・2
富士浅間神社-せんげん考 高森町古川、諏訪神社南のはしに、富士講の信者が祀った石碑がある。 三国 一山 富士浅間大神宮(正面) と刻まれて、富士形の台石に祀られた、珍しい文字の石碑である。一般には大形の石に、富士浅間大菩薩、或は大権現と神仏両部の称名で、どこの村落にも奉祀せられているもの。富士山神社と記されたのもあるが、三国一山 富士浅間大神宮と奉祀せられた石塔は稀有の存在であらう。 富士浅間神社の勧請がいつ頃からこの地方に行われたか。 『伊那尊王思想史』(市村威人)には
「初め富士講と呼ばれた不二教は、小谷禄行に上り始めて この峡谷に伝えられた。 禄行は文政十一年秋半ば過ぎたるころ飯田に来り・・・その第一声を松下千代に伝えた。」 とある。 禄行は富士山に登り、国家の豊安を祈ること、百六十一度の多きに及んだという。『伊那尊王思想史』は不二教・実行教について詳かであるが、これによると富士浅間神社の勧請と、不二教の伝来とは別個に考えなければならないようだ。 市田・山吹「延宝の境論絵図」(延宝六年 一六七七)「元禄元歳地付山論御裁許絵図」(一八八六)の両古絵図(大洞家文書)に「せんげん林」と記載された所があって、現在の浅間堤から少し下った、月夜平東北の台地を示している。もと富士浅間神社のあったと見られる辺りで、この絵図の出来た延宝-元禄以前、既に浅間の柱が存在したことを証明している。そこに富士塚と小祠のあったことも伝承せられているのである。 旧牛牧村の古絵図にも「せんげん」と記された山がある。 鐘鋳原から寺山の北尾根を登りつめた、海抜九百メートル程の山の山頂に、大正の来年這松の古本が三、四本あって、お浅間様と呼ばれていた。伊那谷が一望に眺められる見晴らしの良い所で、小学校一、二年生の頃春の遠足に登った記憶がある。 延宝三年から九年間にわたって牛牧村と上・下市川村の間に草場論争があって、飯田奉行の裁定でおさまった。大きな争議の都度地図は改められたから、その時節作製の絵図と見られるが、今から二百四十年(一七四二)以前に既にこの山頂に富士浅間神社が祀られて、遥拝所となっていたことが知られる。 座元寺原西北にある富士浅間神社は、中央道の道踏敷に社地の半ばを奪われたが、それでも猶一反歩以上の社地を持つこの地方には珍しく規模の大きな無資格社で、富士浅間神社を中心に御嶽・白山・琴平・秋葉等十余社の山岳信仰を主として祀った社で、滝もあったが中央道に潰されたという。「富上行屋」の跡が残り「行屋」は取り払われたが、あと地に新築して人が住んでいる。 冨士講最後の行者であろう、竹内忠美さんが今も毎日、例祭祈願を続けていられるよし承った。 竹内さんはこの地方の有力者で、あらゆる名誉職等も勤められた名望家である。 『伊那』六十年九月号、小沢寛一さんの、「向黒地浅間神社考」まことに興味深く拝見した。伊那谷の不二教・実行教等に就いては『伊那尊王思想史』市村先生に詳かであるが、富士浅間神社については、不明の点、解明を要する分か多いと思 小沢氏発表の根羽村向黒地せんげんの浅間神社の変わった棟札の記録は、将来とも私どもの乗荷な参考資料と見られるところなので、この棟札の記録を要約して書き留めることをお許しいただきたい。
根羽村向黒地せんげん神社棟札 一 元禄八乙 奉造立ニ 宣現御宇一社 一 享保六年 奉宣現社一宇 一 寛保二年 奉上棟 浅間社一宇 一 明和六年 富士千見 一 安永四年 富士浅間 一 一 天明五年 葺千間 以下.元禄の頃から凡そ二百年の間に、富士浅間神社の名称は、宣現二、千間三、浅間二と変わって、天明五年「葺千間」と珍しい文字が使われている.この場合「葺千間」は、不二・富士の転嫁と見られよう。 富士浅間神社は古く富士山安祖谷に祭られて、「安祖山大神宮」といわれ、この名称は神代より続いたものであるが、第四十九代、光仁天皇の宝亀五年、勅命によりこの社が我国最初に出現された神々を祭ることから『先現太神』と改めたという。これより「先現」の発音に「浅間」の文字を当てる者があった。六十二代、村人天皇の天暦元年に、「先現大神」を、「阿座真明神」と改称した。これより浅間と阿座間の混用がはじまったという。 従って延暦の大噴火、貞観の大噴火当時の名称は、「先現大神宮」であった。ところが神官が先規の文字を勝手に浅間に改めた。朝廷では私用の「浅間」を許さず「阿座真」を使うよう指示したが、慣用の方が勝って浅間といい、アサマ・センゲンの二通りの読み方が行われている。(『先古代目本の謎』鈴木貞一)
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最終更新日
2021年04月16日 19時42分11秒
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