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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2020年06月16日
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カテゴリ:松尾芭蕉資料室

芭蕉談四編 次郎兵衛物語 その三 延宝七年~

 

然に十二年過て、延宝七年二月十五日、

東叡山涅槃会は賑わしき事と聞候故、

三人連にて参詣いたし帰るさに、

憎俗五人連れにて帰り給う人あり。

ふと見受けたりしに、

姿は変わり給えども、

なりふりかわらぬ出家一人、

其中に連れたち給うあり。

あまり不審に存じ候故に、

跡を慕い、我一人連に逸れたる體にて、

その人の帰りつき給うを見んと慕いたりしに、

橘町の云所に、とある家につけこみたり。

その人も爰にては一人になり給いて、

ある家に入り給いしが、

我れあとを慕い行きたりしを知り給いしや、

後ろをかえり見て、

次郎吉にてはなきやとある。

声は違わぬ若旦那ニてましませば、

あっと申して物も申さず、

泪を流しければ、君も御落涙なされけり。

 

【一二行不明】

 

それより物語り申けるは、

今日は東叡山に参詣仕、

只今帰る最中、御存なされ候通り、

御屋敷の御門外れでは、

大切に及候ゆえ、

御門に断わり参る迄

これに御ざって被下候様にと、

御願申上、急ぎて一散に走り御門に入り、

右の訳を御頭衆まで御願申し置き、

直ちに又々走り帰り、

十年已来の事を申出して、

何かさて置、

先ず御帰りましませと申上げれども、

御承引なく、一度主人に後ろをむけ奉り、

御咎め覚悟の前、

旱注報恩寺にかけ入、切腹と存立けるに、

法印頻りに留められ、

人間と生れて草木と共に朽ん事口惜事也、

何道辺になりとも心を委ね出精せよ、

天晴の事なるべし、

併し此邊をうろつきては思う事成就せず、

何れに大揚の江戸に下り、

彼騒がしき處にて心を静めよや、

我餞別せんとて一封を認め、

江戸の根本寺の佛頂和尚に頼の状を給る。

悉くおし頂き、其夜直に下山し、

直に京伏見の西岸寺任口上人に逢い、

心中を述るに、任口喜び、

此師よりも佛頂師に添書あり。

其上にて、帯刀にては人怪むべし。

出家せよとの給いに故、

我望處也と、一衣一體の境界となり、

夜明の出掛けに、

任口足下に道號を贈らんとて、幸

(以下不明)

 

  桃青 木の葉以後苔の衣や木人道

右任口より號を給わり、

その時より、桃青と改名して、

夜を日に次で此地をさして、

十月十二日に、根本寺に導入、

彿頂和尚に相見して、

旨趣を物語れば、師も至りて嬉び給い、

十一月血脈相承し、

傳法も相済、日夜の修学怠らず、

日々先生の御菩提、

当主公の御武運長久を祈り、

次には、先妣先考の仰菩提、

半左衛門殿、武運永久を祈る事也。

修学の餘力には、

兼て数奇の道たる連俳にあそび、

師より許ありて、

岸本調和、一柳軒不トなど懇意にて、

今日も親友四五輩涅槃會参詣いたしたり。

肩あって着ずと云事なく、

口あって喰わずと云事なし、

天理自然なり。

今日幸に相逢たり、一日も早く立帰り、

此事を半左衛門殿に申上げ、

親、次郎兵衛夫婦にも

語り聞かせよと懇に仰らるれは、

やつがれ泪にくれ、

御存じなけれぬは御尤もなり、

旦那方は隨分御息才に仰渡りなされ、

我親次郎兵衛は去々年相果て、

母は存命に居申候得共、

あなたに御別れ申てより、

日夜嘆に沈み居たりしか、

髪をおろし壽貞と改名をつき、

よろめき居申候。

 

挑青、聞て驚き給ひ、

次郎兵衛は例え存命したりとも

最早七十歳に及ぶべし、

孝嫗(ムハ)は我事を嘆き居る事尤也。

久しき乳母の恩わすれ居たるは

恩をしらざるに似たり、

勿体なしと涙涙し給い、

しかし尼になりしは殊勝也と感じ入り給い、

次郎兵衛か改名など書つけ、

終夜(よもすがら)禅法に骨を打給い。

御学文に出精ありし事語り給い、

夜も明ければ、半左衛門殿に紙面認め、

伝言には数年佛頂和尚御懇切にて

儒彿の二教にわたり、

和学は季吟の敦授に預かり、

少し存つき候事あって、

爰本名ある風流人など因みに交り、

深川に杉風と云者我を招く、

二三日中には池亭に移るべし、

その上にて飛脚頼りに文通すべし、

それ迄は我に逢たる事。

必ず沙汰すべからずと。

十七日に別れまいらせて御屋敷に帰り、

其日帰郷の事願出て、

二月廿日に江戸発足仕申し候。延宝八年也。

 

廿日に早々江戸を立、

心いそいそ急ぎし故、

三月朔日に伊賀上野に着たり

早々半左衛門様に、

忠左衛門様に御目にかゝりたる事を申上げれば、

御内の悦び、

寿貞尼積気にて少し病気なりけるが、

我を忘れて起上り、悦びあう事限りなく、

併し紙面にも伝言にも外々に沙汰なき様にと

くれぐれ申来れる事なれば、

深く隠便しておかれける。

例年花盛りには

一家中一等に花見を仰付らるゝ事也。

今年花見も八日の御国に、

故主峰吟公の御別業にて、

御家中世緑の衆御觸ありければ、

半左衛門殿にも罷出られけり

。探丸公奥御殿に御出御有せられる。

甚ダ興に入らせられ、

御盃も数反まわりて後、

何れも歌連俳思い思いの興あるに、

大殿探丸公、半左衛門を召され、

其後は一向に聞きざりしが、

忠右衛門の在処未知れざるや、

箇様の花盛りなどには

ゆかしき歌思う也とありければ、

半左衛門殿能節と存じて、されば候、

此間誰云うとなく、

忠右衛門を江戸にて見うけたりと申者のあるよし、

しかも出家せし姿にてありけり、

誠やらんと、

よそごと申上げれば、大殿聞こしめし、

それは誰人か見受しや、

何とぞ實事を聞き事也、

いか様にも主計か相果たし後は、

ひたすら出家の望有し也、

主計がか菩提の為と思いて

素懐をとげたるならん、

ゆかしき心はせ也、誰をかな。

物なれたる者を遣わして、

江戸を探して見た忿もの也と。

何を想い出し給いてか、

御聲振るえ、泪を拭い拭い、仰ありければ、

半左衛門も共に泪にくれ給い、

こは有難き御意を承るものかなと、

御前の御座敷を下がり、

城彌太夫をもって、只今かくの御意を給わり候、

不忠不孝の者なれは

其後その儘打捨置きしが、

有難き御意なれは誰彼と人頼みいたさんよりは、

召遣いの下良を差立可申と存候はいかがと、

談合いたされければ、

彌太夫早々御前に罷出、

半左衛門申されたる事を御伺申されければ、

しかるべし早々差立可申ご御意あるにぞ、

細々と状を認め、彌太夫殿よりも添状して、

直ちに次郎兵衛を差立られけり。

有難くも路用とて御役所より

金二両を拝領させられけり。

次郎兵衛右の金子を拝領して、

三月廿七日に伊賀を出立し、

四月六日に江戸に急ぎしが、

橘町に尋ければ、最早借家を立申されたりと、

表屋よりの反答なれば、

直に根本寺に行けるに、

深川の芭蕉庵ご申事故、

早々深川にはせ行、芭蕉庵と尋ねけるに、

紛れもなく尋ねあたりたり。

十四五の小坊が取次たり。

直に紙面を指上、

大殿の御意の趣を述ければ、

挑青君、手紙を三度頂き給い、

開封して当惑し給ひ、

其日十人余集曾たりしが、

其人々に紙上の趣を讀み聞かせられしに、

この人々も行当たり給いし體にて、

何分ご病気とあってご辞退したまへかしと、

その中の老人より申し出し給ひければ、

この人「不卜」と申す人也、

其儀しかるべしと有て、御返書認めになり、

我翌七日・八日休息して九日に江戸を立申候。

其時十四五の発明なる小坊主

侍者して居たりしか云、

門人最早五六十人ありと申き。

帰りに大雨ふり続き、

大井川渡りなりかね、十日滞り、

その上足痛みければ、伊賀に帰りつき候事、

廿八日にて候、

早注御返事を差上げれば、

御館に具に申上給いけり。

大殿甚だ御満悦あそばし、

江戸の大揚にて門人大勢出来しては、

その身の誉れ當所の面目さすがの者也と

大きに悦び給いけるとぞ。

その時より、

半左衛門殿も表向の御取遣い差支なき様に相成候。

 

その後桃青

 

御所労の由聞こえけるにぞ、

御見舞そして我を差越る。

七月三日深川に着く。

積気の御悩みゆえ、無程御快復也。

八月十三日江戸を立ち、同廿五目に帰郷する。

 






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最終更新日  2020年06月16日 10時23分41秒
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