カテゴリ:与謝蕪村資料室
洛夜半亭蕪村老人、 年頃海に対し山に嘯き、 花に眠り鳥に寝覚て、 句を吐くこと十萬八千、 その秀でたるものは、 ひとの耳底にとどまり、 諸集にあらはる。 惜むべし去年の冬衰病終に 夜臺に枕して一字不説、 高弟几薫頓で金婆羅草をつたへて、 門人のため一集を撰、 書輯佳裳にちからをあはせて、 ことし小祥忌辰の永慕とす。 はた予と亡叟とまじはり久しきまゞに、 遥に武江に告げてそれが序を需む。 予またわすれめや舊識五十余年。
雪中庵 蓼太
蕪翁(蕪村)句集巻之 上
几董 著
春之部
ほうらいの山まつりせむ老の春 日の光今朝や鰯のかしらより 三椀の雑煮かゆるや長者ぶり
離落 鶯のあちこちとするや小家がち 鶯の聲遠き日も暮れにけり うぐひすの麁がましき初音哉 鶯を雀かと見しそれも春
画賛 うぐひすや賢過ぎたる軒の梅 鶯の日枝をうしろに高音哉 うぐひすや家内揃うて飯時分 鶯や茨くぐりて高う飛ぶ うぐひすの啼くやちひさき口明て
禁城春色睨蒼々
青柳や我大君の艸か木か 若草に根をわすれたる柳かな 梅ちりてさびしくなりし柳裁 捨てやらで柳さしけり雨のひま 青柳や芹生の里のせりの中 出る抗をうたうとしたりや柳かな
草 庵 二もとの梅に遅速を愛す哉 うめ折で皺手にかこつ薫かな 白梅や墨芳しき鴻鶴館 しら梅や誰むかしより垣の外 舞々の場まうけたり梅がもと 出づべくとして出ずなりぬ梅の宿 宿の梅折取るほどになりにけり
摺子木で重箱を洗ふがごとくせよとは 政の巌刻なるをいましめ給ふ 賢き御代の春にあうて 隈々に残る寒さやうめの花 しら梅や北野の茶店にすまひ取 うめ散るや螺鈿こぼるゝ卓の上 (螺鈿=らでん) 梅咲きて帯買ふ室の遊女かな 源八をわたりて梅のあるじ哉 (源八=淀川の桜ノ宮に近い渡し) 燈を置かで人あるさまや梅が宿
あらむつかしの仮名遣ひやな 字義に害あらすんばアゝまゝよ 梅咲きぬれがむめやらうめぢややら しら梅の枯木にもどる月夜哉 小豆売り小屋の梅のつぼみがち 梅遠近南すべく北すべく
旱 春 なには女や京を寒がる御忌詣 御忌の鐘ひゞくや谷の氷まで やぶ入りの夢や小豆の煮るうち 蔵入やよそ日ながらの愛宕山 やぶいりや守袋をわすれ草 養父入や鐵漿もらひ来る傘の下 やぶ入りは中山寺の男かな
入 日 七くさや袴の紐の片むすび これきりに径畫きたり芹の中 古寺やほうろく捨るせりの中
几董とわきの浜に 遊びし時 筋違にふとん敷たり宵の春 肘白き憎のかりねや宵の春 春の夜に尊き御所を守る身かな 春月や印金堂の木の間より
春夜聞琴 ■沼の肩のなみだやおほろ月 折釘に烏帽子かけたり春の宿 公達に狐化けたり宵の春
もろこしの詩客は 千金の宵ををしみ 我朝の歌人は むらさきの曙を賞す 春の夜や宵あけぼのの其中に 女倶して内裏拜まむおぼろ月 薬盗む女やはあるおぼろ月 よき人を宿す小家や朧月 さしぬきを足でぬぐ夜や朧月 野 望 草霞み水に聲なき日ぐれ裁 指南車を胡地に引去ら霞哉 高麗舟のよらで漕ぎゆく霞かな 橋なくて日暮れむとする春の水 春水や四條五條の橋の下 足よわのわたりて濁はるの水 春の水背戸に田作らむとぞ思ふ 春の水にうたゝ鵜繩の稽古裁 蛇を追ふ鱒のおもひや春の水
西の京にばけもの栖て 久しくあれ果たる 家ありけり 今は其の沙汰なくて 春雨や人住みて煙壁を洩る 物種の袋ぬらしつ春のあめ 春雨や身にふら頭巾着たりけり 春雨や小磯の小貝ぬるゝほど 滝口に燈を呼ぶ聲や春の雨 ぬなは生ふ池の水かさや春の雨
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最終更新日
2020年08月05日 07時16分43秒
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