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2020年11月09日
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カテゴリ:甲斐武田資料室

武田氏の領国支配

 

『山梨県郷土史研究入門』 笹本正治氏著

 

  山梨郷土史研究会 編

  山梨日日新聞社 平成4年発行

   一部加筆 山梨歴史文学館

 

武田氏の研究というと従来は信玄の経歴が中心に置かれてきた。領国支配の研究も信玄研究から出発している。まず、領国支配全般を扱った著書からみてみたい。

戦前の研究では殆ど傾国支配については触れられていない。戦後の信玄研究の画期をなしたのは奥野高廣『武田信玄』で、この中には「信玄の家臣団と権力構造と軍法」・「信玄の民生と家法」の章がある。

続いて井上鋭夫『謙信と信玄』が、「軍事力の構成」と「民政」の章を設けており、この両書によって信玄時代の領国支配の大きな見通しがたてられた。

武田氏の領国支配を直接扱った著書としては、なかざわ・しんきち『甲斐武田氏』が最初で、当時の学界状況に応じた問題の設定がされている。続いて上野晴朗『甲斐武田氏』が出た。本書はそれまでの信玄中心的な武田氏研究から大きく一歩を踏み出しており、取り上げられた問題およびその視点は、今後とも受け継いでいかなくてはならないものが多い。

その後、個人の著書としては豊かな成果を示しだのが、柴辻俊六『戦国大名傾の研究』である。また、これまでの武田氏の研究の到達点を示すのは、柴辻俊六編『武田氏の研究』である。この両書は今後の研究が乗り越えていく目標とすべきもので、武田氏の傾国支配の研究状況を知るために必須の本といえよう。さらに新しい本として笹本正治『戦国大名武田氏の信濃支配』があり、これまでとは異なった視点を出している。なお、萩原三雄編『戦国武将武田信玄』にも、領国支配にかかわる様々な事柄が取り上げられている。

次に以上の本に収録されていない、個別的な論文や問題について触れてみたい。武田氏の傾国支配の実態を追究するためには古文書が基礎となるが、最も優れているのは相田二郎「武田氏の印判に関する研究」である。今後研究を深化させるためには、古文書論を推進する必要がある。領国拡大や支配の拠点となった城については、萩原三雄「丸馬出の研究」、上野晴朗『武田信玄 城と兵法』がある。『山梨県の中世城館跡』および隣県の城館跡の報告書も役に立つ。傾国の境がどのようになっていたかは領国支配を考える上で重要であるが、これについては笹本正治「武田氏と国境」がある。傾国境の問題は領国内の国人領主と武田氏の関わりの評価にもつながる。武田氏は領国支配に宗教を利用した。これに関しては笹本正治『武田氏三代と信濃』が新たな視点を示している。領国支配においては職人の果たした役割も大きかったが、笹本正治『戦国大名と職人』が具体的に触れている。検地については目下議論が盛んである。軍役や武士団の支配については、より精緻な研究も望まれる。

また、武田氏の経済基盤の大きな部分を占めていたといわれる金山については、近年研究が進んでおり従来の成果を見直す時期にきている。その意味では武田氏の経済基盤がどこにあったのかを明らかにすることも大切である。農民支配の基本単位になっていたのは郷村であるが、この点の研究も重要である。

このように、今後武田氏の領国支配の研究を進めていくためには、従来の研究成果を前提にして個別の研究を進め、その見直しをしていかなければならない。また、最初にも触れたように、従来武田氏の研究というと信玄が中心で、父信虎や子供の勝頼時代の研究がほとんどなされなかった。しかし、武田氏の領国支配の変化や、その進展状況を知るためには信玄時代だけでは不十分で、少なくともこの三代についてそれぞれ研究を深化させていく必要がある。その上で他の戦国大名の領国支配と比較し、戦国大名の中での武田氏の領国支配の特質を探っていくべきである。 〔笹本 正治〕

 

 参考文献

奥野高廣『武田信玄』吉川弘文館 一九五九

井上鋭夫『謙信と信玄』至文堂 一九六四

なかざわ・しんきち『甲斐武田氏』甲斐史学会 一九六五

上野晴朗『甲斐武田氏』新人物往来社 一九七二

柴辻俊六『戦国大名頭の研究』名著出版 一九八一

柴辻俊六編『武田氏の研究』吉川弘文館 一九八四

萩原三雄編『戦国武将武田信玄』新人物往来社 一九八八

相田二郎「武田氏の印判に関する研究」『歴史地理』七一巻三・五号 一九三九、

のち『戦国大名の印章』名著出版 一九七六に収録

萩原三雄「丸馬出の研究」『甲府盆地』雄山間 一九八四

上野晴朗『武田信玄 城と兵法』新人物往来社 一九八六

『山梨県の中世城館跡』山梨県教育委員会 一九八六

笹本正治「武田氏と国境」『甲府盆地』雄山閣 一九八四

笹本正治『武田氏三代と信濃』郷土出版社 一九八八

笹本正治『戦国大名と職人』吉川弘文館 一九八八

笹本正治『戦国大名武田氏の信濃支配」名著出版 一九九〇






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最終更新日  2020年11月09日 21時43分00秒
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