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2020年11月10日
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カテゴリ:武田信玄資料室

武田氏の諸役体制

 

『山梨県郷土史研究入門』 芝辻俊六氏著

 

  山梨郷土史研究会 編

  山梨日日新聞社 平成4年発行

   一部加筆 山梨歴史文学館

 

研究史

研究史的には、この「諸役体制」という概念はまだ熟したものでないことをまず断っておきたい。通常は領国税制とか収取体系の問題として論じられてきたわけであり、武田氏領に限定しなければ、かなり長い研究史とそれなりの成果を得ているものと思われる。

しかしここではその全体をまとめる力はないので、武田領に限定してみていきたい。さらに領国税制や収取体系の問題としては、本年貢から公事・夫役に至るまでと、その前提となる知行制や軍役の問題、さらには検地や棟別調査の問題にまで遡って考えなければならず、これまた大変に過重に思われるので、ここではあくまでも「諸役体制」を中心とした整理をしておきたい。

 

まず何をもって「諸役体制」としたかについてふれておくと、かつて「戦国期の棟別役」(『戦国大名領の研究』所収)をまとめた時、武田領では本年貢に対する諸役の中でもきわだって棟別役に開する史料が多かったことから、一般に展開されていたといわれる本年貢以外の公事・夫役が、武田領ではかなり早い段階(信虎末期~晴信初期)で棟別を基調として諸役に整理されたのではないかと推定した。この棟別を基調とした諸役の賦課状況と、その諸役の免許状況までをふくめて「諸役体制」とみたわけである。もちろん「諸役」という以上、役の内容としては単に棟別銭のみをいうのではなく、従来の公事的なものや夫役もふくんだ雑多な役といった意味あいのものであり、賦課基準が棟別であったという点において棟別役目=諸役としたわけである。つまり、本年貢や反銭が土地を基準とした収取体制であったことに対して、棟別を基準とした収取体制を「諸役体制」とみたわけである。

 

武田頷を中心にこうした問題に比較的早く関説したのは、田中久夫氏の「武田氏の妻帯役」(『日本歴史』四六号)と思われる。僧侶という限られた身分の妻帯者に課された役銭を明らかにしたものであるが、これも罰銭(過料銭)の一種で、人頭税=棟別諸役の一つと思われる。ついで奥野高廣氏は『武田信玄』(吉川弘文館、昭三四)の中で、武田氏の税制一般を概説し、座役・機役・塩釜役ほかの史料上に散見する諸役の紹介をしている。その後この問題を掘り下げたものは少なく、わずかに中沢信吉氏が『甲斐武田氏』(甲斐史学会 昭四〇、後に補訂版の第十三分冊)で、棟別役と普請役とについて、やや具体的に論述しているにすぎない。ほかは小論であるが筆者の「甲斐武田領の反銭と棟別役」(『歴史手帖』一〇巻一一号)、「戦国大名の請役」(『戦国史研究』三号)、「武田氏の請役体制」(同一三号)がある。

 

 今後の課題

税制は領国経営の根幹であるにもかかわらず、今日残っている史料のみからでは、なかなかその実態を掴みにくい側面が強い。単に制度史的にみても同じ領国の中でさえ時期や地域によって差違があるのも事実であり、全体にわたって種別や数値を示すのは困難であろう。とりわけ諸役はその展開が多様であり、特徴的なものを抽出するといった手法が中心となっている。しかし可能ならば、個々の諸役の実態にも迫りたいし、その集約として領国税制に占める諸役の位置づけも明らかにしたい。

さらに大名の在地支配の主要な部分としての収取体制の原則的なことも明らかにしていきたいと思う。

武田氏領に限定していえば、戦国期三代の間に何度かあったと思われる税制改革の時期の内容、とりわけ「甲州法度」に表わされている税制関連事項の精密な検討、従来多少とも問題としてきた棟別役の位置づけ、それと密接なかかわりのある普請役や陣夫役などの夫役の実態、さらには、こうした請役賦課の前提となる棟別調査による在地掌握の問題、徴収された請役の領国財政上に占める役割など、限りなき課題が山積している。

前述したように「請役体制」は熟さない概念ではあるが、以上のような課題に対する一試論であり、いわば土地に対する検地を前提とした本年貢体制に対比させる意味で、棟別調査を前提とした請役の賦課方式を評価したものである。棟別(戸)が役銭・公事・夫役などの請役の算定基準であったという点の検証が現状では若干弱いが、この点をさらに実証的に論証することが先決の課題であると考えている。その上で、そうした請役を特定の人に対して免除することによって、大名の恣意的な夫役や軍役、さらには請公事的な納物などを徴用する体制、つまりは請役の転換による新たな請役徴発形態までをふくんだものを「請役体制」とみておきたい。 〔柴辻 俊六〕






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最終更新日  2020年11月10日 06時29分01秒
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