2298729 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2021年02月14日
XML
カテゴリ:井上靖の部屋

北 国 『井上靖全詩集』

 

いかにも地殻の表面といったような瓦礫と雑草の焼土一帯に、

粗末なバラックの都邑が急ピッチで造られつつあった。

焼ける前は迷路(ラピリンス)と薬種商の老舗の多い

古く静かな城下町だったが、

そんな跡形はいまは微塵も見出せない。

日々打つづく北の暗影なる初冬の空の下に、

いま生れようとしているものは、性格などまるでない、

古くも新しくもない不思議な町だ。

それにしてもやけに酒場と喫茶店が多い。

オリオン、乙女、インデアン、孔雀、獣麟、

獅子、白鳥、カメレオン…‥

申し合せたように星座の名がつけられてある。

宵の七時よもなると、町全体が早い店じまいだ。

三里ほど向うの日本海の波の音が聞えはじめるのを合図に、

街の貧しい星座たちの灯も消える。

そしてその後から今度はほんものの十一月の星座が、

この時刻から急に澄み渡ってくる夜空一面にかかり、

天体の純粋透明な悲哀感が、次第に沈澱下降しながら、

町全体を押しつつむ。

確かに夜だけ、北国のこのバラックの町は、

曾て日本のいかなる都市も持たなかった

不思議な表情を持っていた。

いわば、星の植民地とでも言ったような。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2021年02月14日 15時16分17秒
コメント(0) | コメントを書く
[井上靖の部屋] カテゴリの最新記事


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

山口素堂

山口素堂

カレンダー

楽天カード

お気に入りブログ

9/28(土)メンテナ… 楽天ブログスタッフさん

コメント新着

 三条実美氏の画像について@ Re:古写真 三条実美 中岡慎太郎(04/21) はじめまして。 突然の連絡失礼いたします…
 北巨摩郡に歴史に残されていない幕府拝領領地だった寺跡があるようです@ Re:山梨県郷土史年表 慶応三年(1867)(12/27) 最近旧熱美村の石碑に市誌に残さず石碑を…
 芳賀啓@ Re:芭蕉庵と江戸の町 鈴木理生氏著(12/11) 鈴木理生氏が書いたものは大方読んできま…
 ガーゴイル@ どこのドイツ あけぼの見たし青田原は黒水の青田原であ…
 多田裕計@ Re:柴又帝釈天(09/26) 多田裕計 貝本宣広

フリーページ

ニューストピックス


© Rakuten Group, Inc.
X