カテゴリ:松尾芭蕉資料室
芭蕉文集 閉闘説
色は君子のにくむ處にして、佛も五戒のはじめに置くといへども。さすがに捨てがたき情のあやにくに、あはれなるかたがたもおほかるべし。人しれぬくらぶの山の梅の下ふしに、おもひの外の匂ひに染て、しのぶの岡の人めの關も守人なくば、いかなるあやまちをかしいでゝん。あまの子の波の枕に袖しほれて、家を賣身をうしなふためしもおほかれど、老の身の行末をむさぶり、米銭の中にたましひをくるしめて、ものゝ情けをわきまへざるには、はるかによして罪ゆろしぬべく、人生七十をまれなりとして、身のさかりなることはわづかに二十飴年也。はじめの老の来れること、一夜の夢のごとし。五十年八十年の齢かたぶくより、あさましうくづをれて、宵寝がちに朝起したるねざめの分別、何ことをかむさぶる。愚なるものは思ふことおほし、煩悩増長して一藝すぐるものは、是非のすぐ るゝもの也。これをもて世のいとなみにあてゝ、貪欲の魔界にこゝろを怒し、溝洫におぼれて生すことあたはずと、南華老仙の只利害を破却し。老若をわすれて閑にならんこそ、老のたのしみといふべけれ。 人来れば無用の辨あり、出ては他の家業をさまたぐるもうし。尊敬が戸を閉て、杜五郎が門を鎖んには。友なきを友とし貧を富りとして、五十年の頑夫みづから書、みづから禁戒となす。 朝がほや畫は鎖おろす門の垣 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年05月25日 15時49分52秒
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