カテゴリ:松尾芭蕉資料室
芭蕉 「炭俵集」 素龍序
閏五月、江戸て「炭俵集」が出来て六月刊行した。 野披、利牛、孤屋の撰である、
炭俵の名は、野彼等が芭蕉庵の多能を訪うて、火桶の炭を弄んだ俳趣から出たものである。 素龍の炭俵集の序に。
此の集を撰める孤屋、野彼、和牛等は、常に芭蕉の軒に行かよひ、 瓦の窓をひらき、心の泉をくみしりて、 十あまりなゝの文字の野風をはげみあへる輩なり、 霜凍り、冬どのゝあれませる夜、 この二三子庵に待て、火桶にけし炭をおこす、 庵主これに口をほどけ、 宋人の手かがまらずとといへる薬是れならんと、 小竹の起き折箸に(火唐 オキ)のさゝやかなるを、 竪にをき撰になほしつゝ 「金屏の松の古さよ冬籠」 と、舌よりまろびいづる聲のみだりか耳に人、 さとくもうつるうの目鷹の目ともの、 是れに魂のすはりたるけにや、 これを忍ひ立はるの日の、のつと出しより、 秋の月にかしらかたむけつゝ、 やゝ吟終り篇なりて、竟にあめつちの二巻に分つとなん。 是れを開き見るに、有聲の絵をあやどりおさむれば、 叉くぬき炭の筋見えたり ……中略…… ひと日、芭蕉旅行の首途に、 やつがれが手を携へて再會の期を契り、 且つ此等の集の事に及て、かの冬籠の夜、 桐火桶のもとにより、 くぬき炭のふる歌をうち字しつるうつりに、 炭俵といへるに誹なりけりと狽こちたるを、 小子聞をりて、よしと思ひうるとや、 此の集を撰ぶ媒と成にたり、 此の心もて宜しう序書てよと云拾て別れぬ ……下略…… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年06月16日 16時39分20秒
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