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2021年08月19日
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カテゴリ:樋口一葉の部屋

樋口一葉 はしがき               

 

  塩田良平氏著 『人物叢書』日本歴史学会 

吉川弘文館 昭和53年刊

一部加筆 山梨県歴史文学館

 

  はしがき

 

一葉ほど愛惜された作家は尠(すく)ないだろう。

二十五歳の若さで死んだ、ということも手伝っていようが、やはりいい文学を残したからである。それも、決定的な作品というのは、わずか一年ぼかりの間に書いたものである。当時他に女流作家がいなかったわけではなく、彼女と同じように若死をした閉秀もないではないが、一葉の文学ほど今に至るまで愛読され、一葉ほど惜しまれているものはない。その意味では、不幸だった彼女の一生に比して、彼女ほど死後恵まれた作家はなかったと思う。

 私は、一葉に培われた封建的精神と明治時代の持つ自由の精神とが、彼女の中でどのように格闘して作品化して行ったかを眺めて、かぎりない興味を覚える

一葉が外部的なものをはね返して、次第に自分の内部のものに生きようとし出した時には、もう天寿の限界に追っていた。私は一葉伝をかきながら、彼女のあわれさを感じ、明治の女性の運命を感じたのである。

 

ところで、私は本書をかくに当って、説明の便宜上、樋口悦氏の所蔵する『かきあつめ』に従って、叙述の体裁を整えた。『かきあつめ』は邦子の一葉年譜覚え書である。邦子はいうまでもなく一葉の妹であり、この所蔵者悦氏は邦子の長男である。

『かきあつめ』は恐らく邦子が姉から聞き得た経歴に邦子自身の記憶を加えて作製したものであろう。だから内容に若干の錯誤もあり主観も混じている。後、斎藤緑雨がこれを土台にして訂正を加えたのが、在来の一葉年譜の原型となるのであるが、私はむしろ、最初の邦子自筆だけの覚え書の方が、簡潔で生き生きとしているので、これを基礎とした。もちろん補正すべき点を訂したことはいうまでもない。

 次に本書の性質上、読者に読み易いように結論だけを示した部分が多い。従って、詳しい経路や依拠した資料を知りたい方は、拙著『樋口ー葉研究』に当って頂きたい。右書発行以後に管見に入った資料や新見解については、できるだけ本書で補説したつもりである。なお、かなり省略したつもりだが、一葉生前の樋口家に紙数を費したのは、両親の体験から導き出された人生観・世界観がどのように一葉の人間形成に役立ったか、或いは損ったかを説明する材料にしたかったからである。

 最後に、本書の出版を慫慂された高柳光寿氏に深甚の謝意を表する。性懶惰にして遅々として筆が運ばなかったが、願くにして巻を成すに至ったのはひとえに同氏および編集部の激励のお蔭であった。

 






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最終更新日  2021年08月19日 15時10分41秒
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