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山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

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2021年11月23日
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カテゴリ:甲斐武田資料室

甲陽軍鑑 品第二 九十九ケ条の事(50~)

 



五十、

敵陣において不意を撃つときは、

正面の道路をかけて別の間道から攻めること。

●古語にいう、

昼は桟道を修理して、そこを渡ると思わせ、

夜になると別の嶮道を渡る。

 

五十一、

大方のことは、

人に尋ねられても知らないふりをするのが無難というものか。

●古語にいう、

たとえよい事であっても、あれば煩わしいから

むしろ何もないのが平穏でよい。

 

五十二、

家来があやまって離反した場合でも、

処分をうけたのち反省したなら、

事情に応じて許し再び家来とすること。

●古語にいう、

決意あらたに進む者にはその意気をかい、過去をとがめない。

 

五十三、

父が道理をさとらないため処罰されても、

父親の処罰と別に、子が忠功に秀でていれば、

子供には怒りの念を抱かないこと。

●『論語』にいう、

まだら毛の牛の子でも、赤毛で角の形がよければ、

祭の生贄に用いまいとしても、

山川の神々が捨てておかない。

 

五十四、

軍勢を扱う場合、

和敵(争わない敵)か、破敵(破るべき敵)か、隨敵(従う敵)か、

の分別肝要のこと。

●『三略』にいう、

敵によって戦略を変える。

 

五十五、

毎事にも争うことは、敢えてしてはいけない。

●『論語』にいう、

君子は人と得失を争い、勝負を競うことを決してしないが、

もしするとすれば、まず弓の競射であろうか。

 

五十六、

善悪をよく正すべきこと。

●『三略』にいう、

善を廃すれば則ち衆の善意衰う。

一悪を賞すれば則ち衆は悪に帰す。

 

五十七、

食物到来の時は、眼前に仕える諸具に少しずつ配分すべきこと。

●『三略』にいう、

昔、良将は、兵を用いるのに、濁酒を贈る者があると、

曲水の宴のように、諸兵と同じように飲んで心を一つにした。

 

五十八、

常に功をたてるよう努めなくては、立身は為しがたいこと。

『老子』に

里の行も一歩より始まる、という言葉がある。

 

五十九、

貴人に対しては、たとえ自分に一理あっても□応えせず忍耐すること。

●『孔子家語』(孔子の言を集録。十巻)にいう、

口数が多いと無用なことを言ったり、

言いそこないをしたりするから、窮地におちいる結果になる場合が多い。

 

六十、

過を争って目論してはいけない。過失以後の嗜みが肝要のこと。

●『論語』にいう、

過ちを犯したら、それを潔く改めるべきだ。

過ちを犯してそれを改めないのが、ほんとうの過ちというものだ。

 

六十一、

深く思い立つことがあっても、

そうせざるを得ない意見は受け入れること。

●『論語』にいう、

約束して言った事が、道理にあっている場合は、

言った通り実践すべきだ。

 

六十二、

貴賎ともに老若を侮ってはいけない。

●古語にいう、

老を敬するに父母の如くす。

 

六十三、

出動の時は食物を夜中に服し、

陣屋から出るとすぐ敵に合うつもりで出立し、

帰り着くまで、少しも油断してはいけない。

●云く、

無為を城となし油断を敵となす、という言葉がある。

 

六十四、

行儀の悪い人に近づかないこと。

●『史記』にいう、

その人を知らないなら、その友を視よ。

●またいう、

人はただ賢に馴れ、賤しいことに触れないようにしろ。

花中の鶯舌は華やかではないが香しい。

(周囲の環境がよくなれば、それに自然に染まってよくなる)

 

六十五、

あまりに人を疑ってはいけない。

●『三略』にいう、

大軍の禍いは、同志が疑い怪しむことだ。

 

六十六、

人の過を、批判すべからざること。

●語に云う、

好事は他に与えよ。

 

六十七、

嫉妬の咎、堅く申しつくべきこと。

●云く、

堅(甲)を緩めるは、賊を招く媒(なかだち)、

顔に粉を塗る厚化粧は色欲を招く媒なり。

 

六十八、

佞人の心(邪悪で口先上手)を持つべきでない。

●『軍議』にいう、

佞人が上にいれば皆訴えて混乱する。

 

六十九、

お召の時すこしも遅参してはいけないこと。

●『論語』にいう、

上司に呼ばれた場合は乗り物をまたず、すぐに行くこと。

 

七十、

武略そのほか隠密のことを他言してはいけない。

●『易経』にいう、

機密が保でなければ則ち害と或る。

●『史記』にいう、

事は秘密をもって成功し、泄(もら)すことによって失敗する。

 

七十一、

夫凡(凡人・普通の人)に情をかけるべきこと。

●『尚書』にいう、

徳はこれ善政、善政は民を養うにあり。

 

七十二、

仏神を信ずべきこと。仏心に叶えば則ち時々力を添える。

邪心をもって人に勝ったとしても加護が露(あらわ)れずして亡びる。

●伝にいう、神は礼や理にはずれた物事はうけっけない。

 

七十三、

味方が敗軍となれば、ひとしお活躍すべきこと。

●『穀梁伝 こくりょうでん』

(『春秋穀梁伝』の賂。中国の経書十一巻)にいう、

万全であればむやみに戦うまでもないが、

かりに戦っても積極的に全力で戦う方が死をまぬかれる。

 

七十四、

酔狂の族に取り合うべきでない。

●『漢書』(前漢の歴史書。班固の撰。百二十巻)の例に、

丙吉という者が、前漢時代宰相の秘書の地位についた。

その時酔っぱらいが車を叩いたが問題にしなかったという。

 

七十五、

他人に対し聶賀、偏頗(えこひいき不公平)すべきでないこと。

●『孝経』(経書)にいう、

天地は特定のもののために運行を乱さない。

賢明な人物はある人をかばうために法を曲げたりはしない。

 

七十六、

利剣(鋭利な剣)を用い、いささかも鈍刀を帯してはいけない。

●鈍刀は骨を截らずという言葉がある。

 

七十七、

宿そのほか歩行の時、前後左右に心をはらい、

油断してはいけないこと。

●『臣軌 こはん』

(唐・則天北后撰。人臣の軌法とすべき道を述べた書。二巻)

にいう、

事を慎まざれば敗れをとる道なり。

 

七十八、

人の命をとること、ゆめゆめこれあってはならない。

●『三略』にいう、

国を治め家を安ずるけ人を得ればなり。

国を亡くし家を破るは人を失すればなり。

人材を得ることこそ大切である。

 

七十九、

隠居の時、その子の力をかりてはいけない。

●『碧微禄』にいう、

天台山中に生ずる木即標(そくりつ)の杖を使わず、

深山に身を隠す。

また善悪をもちだして自分を識別する事はやめてほしい。

そういう俗世の批評ごとなどかかわりないことだ。

 

八十、

鵜飼、鷹狩、遊山は度をすごしてはならない。

奉公を怠る原因となる。

●語にいう、

一日中、俗塵を駆けめぐって楽しみを追い、 

自家の珍宝、真の自分を見失う。

 

八十一、

見物の時、自他を忘れ、油断してはいけない。

●語にいう、

目方を計るときすぐにその軽重をみてとれ。

はかりの目盛りの起点にある星印などあてにするな。

●(『碧微禄』に再三引用されている)

 

八十二、

下人に対し、寒熱風雨の時、憐潤の情をかけること。

●『論語』にいう、

民を公役に使う場合は、

農耕そのほか仕事にさしつかえない時期をえらぶ。

 

八十三、

千人で敵に正面から向かうより、

百人で横から攻めた方が有効である。

●古語にいう、

千人が門を破るより、

一人が閂(かんぬき)をはずす方が効果的だ。

 

八十四、

白分から戦いの模様などを、雑談すべきでないこと。

物言えば、説明を誤る。

●また古語にいう、

初めはほんのわずかの違いでも、終わりは天地の開きとなる。

 

八十五、

兵法で有利な戦法や秘術等を少々知らなくとも、

如っているようすをしていた方がよい場合も多い。

●古語にいう、

話で聞いていたときは

鼎(かなえ)の重さはどの大人物といわれていても、

会ってみると一本の毛のように軽い人物であったりする。

 

八十六、

下々の批判はよくよく聞き届け、

たとえ如何に腹が立っても堪忍し、

ひそかに工夫すべきこと。

●刁刀(ちょうとう)魯魚の文字はともに字画が似ていて

誤り混乱しやすいが、工夫して冷静に区別すること。

 

八十七、

御帰陣のとき、片時も御先へ帰ってはいけない。

●古語にいう、

最初の時のように最後をきちんと慎重にすること。

 

八十八、

総じて如何に御懇切であっても、

相手の内輪のこと、裏面にまで立入らない。

●語にいう、

朱に近づけば赤く、墨に近づけば黒くなる。

 

八十九、

人前に於いて、食物ならびに物の売買の雑談はすべきでない。

●金属の質は火で熱してみればわかり、

人は言動によって本性が知れる、という。

 

九十、

たとい知人たりといえども、重要な事を頼むのは慎重にする。

●古語にいう、一盃の酒を貪って飲み、満船の坦を失なう。

 

九十一、

徒党を組んではいけないこと。

●『論語』にいう、

君子は公平に広く人と親しむが、

小人はかたよった小さな党派をつくるものである。

 

九十二、

たとえ真実の交りをなす友といえども、婬乱雑談すべきでない。

もし人が話し懸ければ、

人目に立たないようにその座を立つべきこと。

●語にいう、

自から深慮し、他人と一つ口にならない。

 

九十三、

人前に於て、みだりに他人を非難し背語すべきでない。

●『戦国策』(中国春秋時代の国策を述べた書、三十三巻)にいう、

その善を賞すべし。その悪を語るべからず。

 

九十四、

筆跡、嗜むべきこと。

中国古代の三王朝にせよ、三代の家の事跡にせよ、

立派な筆墨によって伝えられている、という。

 

九十五、

負債は、一部は自分の労役で、一部は知行ですべきで、

両方知行で果たそうとすると必ず無理がくる。

善く行く者は一度に両足をあげて歩きはしない。

春の光は平等にさすが、咲く花には自から長短の差がある、

というものだ。

 

九十六、

たとえ相手が多勢といえども、備え薄ければ撃つべし。

また守兵すくなしといえども備え厚き場合は思慮すべきこと。

●兵書『孫子』にいう、堂々たる陣を伐つなかれ。

正々たる旗を遮ぎるなかれ。

これを伐つことは卒然という名の蛇のようなものだ。

卒然は常山(中国の山の名)の蛇で、

首を伐れば則ち尾が、尾伐れば則ち首が助けにくる。

先陣と後陣、左翼と右翼が互いに攻撃や防御に協力し、

敵勢に乗ずるすきを与えない。

 

九十七、

正式な儀式をのぞいては、

異様、異体の姿をもって起居勣静すべきでない。

●『論語』にいう、

君子は威厳がなくては人を服せしめることはできない。

 

九十八、

すべての事柄にわたって油断すべきでないこと。

●『論語』にいう、

我江口に我が身を三省す。

●つけたり。

たとえ夫婦一所に在りといえども、

いささかも刀を忘れてはいけない。

人を殺す刀、人を活かす剣という言葉のように、

心をゆるし油断しないこと。

   また風呂に於て顔ならびに両手の垢を、

人に取らすべきでないこと。

   そのような心おごる態度をとらないこと。

 

九十九、

毎事につけても、怠るべきでないこと。

●『孟子』にいう、

役々として倦まず一心に努力する人物こそ、

舜(中国では偉大な聖人君子とされている)にふさわしい。

 

  以上九十九ケ条。

 

   いたずらに多言して他人の耳には喧しくひびいたであろう。

これはむしろ往生の書(遺書)ともいうべきものである。

 

 二と五をかけて十、二と五を加えて七、

この六つの文字には信玄家の秘書口伝がある。

 

永禄元年戊午(一五五八)武田左馬助

(信玄の弟。永禄四年川中島合戦で戦死)信繁

                      在判

  卯月吉日

 長老へ。(信繁の信豊)

 

 

〈注〉

全文が漢文で、表題および跋にあるように武田信繁が、その子信豊に与えた教訓というかたちになっている。典籍の引用は原典とずれている場合が多い。

 






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最終更新日  2021年11月23日 16時18分19秒
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