カテゴリ:文学資料館
『甲斐日記』加茂季鷹
津久井・富士・甲斐日記(日記記行文)に観る甲斐(2)
丸山光重氏著 一部加筆 山梨県歴史文学館
❖ 八月朔日、躑躅が崎にて 石ずゑのあとだに草にうづもれて むなしくそよぐ秋のゆふ風
❖ 甲府の伊藤可春に乞われて 水ぐきのきよきながれをせき入りて よもにわかてる宿ぞこのやど
❖ 書侍るついでに 言の葉の花の香とめていはね ふみかさなるみちを分つゝぞこし
❖ 府中朝気村の馬場徴信をとひ 大かたの野べとおもはばゆふ露に 袂そぼちてわけいらめやは
❖ 三日あるじつとめて、花のもとに、 えぼうしに笛かきたる絵と、柳のかげに無絃の琴をおきて、 かたへに菊かきたるをもて来て、 うたよみて、かきてといへるを、いなひたれど、 しひのぞみければ、よみてかきつく其歌、 桜花匂ふ春方はちりたりと 吹笛の音も心あるなん 青柳のいとたえにたる玉琴の あたりに菊の花も匂へり
❖ 酒折の宮で 千萬のあづまのえみし平(む)けませし 神の御稜威(みいつ)を仰がざらめや
❖ 社頭秋風といふ題で 夏過ていく夜かねつる神垣の松に すゞしき秋風の声 ゆふしでのなびくも涼しちはやぶる 神のいがきの秋の夕かぜ 幾秋かもりの松がえ枝ふりて 神がき清くそよぐ夕風 吹となきゆふべの風のしらべさへ 秋にすみゆく神垣の松 立ち並ぶ木々の梢も神さびて 秋風すずし坂折の宮
❖ 在原塚にて
川田の平橋庵敲水、俳諧歌をすきで大かた此くにゝはならぶ人なしとぞ。
春秋の花も紅葉もとことはにさき にほひたるやどぞこの宿 といへりければ、かへし 春の花秋のもみぢの色も香も しかじとぞ思ふ君がことの葉
❖ 差出の磯で 今はまだ川にさし出の磯千どり ふりしむかしのあとをとめけり
かくおひつづけて、千鳥はいまも侍るやととへば、つねはいとおほく侍るなりとて、 うちむれてけふはさし出の磯干どり 都のつとの一声もがな (略) 故郷にさし出の磯のいそがすば目をかさねてもかたらはましをといふにあるじかへし、 秋あさきさし出の磯の初もみぢ おもわすれせでまたもとへ君
❖ 石森の宮で あし曳の山路へだてゝあし引の 山なす千々の石なりの宮
やゝ日も西にかたぶき、雨も降出ぬべきけしきなれば、 いそぎて元克が家にヽたそかればかりひぢがさして帰りぬ。
あるじ うま人のとひ来まさずばいたづらに 庭の真萩はちゆかましを
といへりければ、 われはもよ友がきえたりから衣き ならの宮の友がきえたり
❖ 川田にて 千世かけてすむべき宿としられけり 庭の池みづきし松がえ 底清くてらす明松にいさや川 いさとこたふるいろくづやある
❖ 笛吹川の岸で、人々と別れをつげて 浪の音も秋もしらべに成にけり 笛吹川の水の朝かぜ
❖ 笹子峠をすぎて
初雁里といふに出、東鑑に波加利といへる所なりとぞ、 時しもあれ、里の名いとおもしろけれふ いつの世に誰聞きそめて名づけけむ あら山中のはつかりのさと さとの名をわが身にしる人のありげにもなしや。 この次の里を、花咲といへるときけば、 かならず萩の花なるべしと思ひつづけつゝ、 山路分ゆくに、日暮れたれば、 大月といへる駅に宿らむとてきかするに、 いたく荒たる家なるが、ことにきのふの水にて、(略) 故郷の軒もる月は秋ごとに 住あらしてぞすみまさりける
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最終更新日
2021年12月27日 17時00分53秒
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