『あの病院での事件のことを...。』『あの男のことを...。』
雑踏に紛れてインタビュアーの声。帰ってくる声は『悪魔。』『悪魔。』『悪魔。』
無作為に伸びる縮れた髪、ただれて変色仕切った顔面、奇妙な方向を向く片足のせいで
歩行もままならず片杖をつく背虫男、渋谷エビス。―醜い悪魔、呪われた神の子。
そんな容姿ゆえに芽生えた暴力という屈折した正義と、それに賛同した畜生たちの叫び。
悪魔と呼ばれた男の”反逆”の意味とは―。
一人インタビューの答えに躊躇する男の証言。
渋谷エビスの極悪非道ぶりを、まるで楽しんで演じていられたのは尾上松緑さん。
去年演じられた新歌舞伎の中で、1番印象に残っているのは【泥棒と若殿】。
中でも松緑さんの演じられた、泥棒に入ったくせに世間知らずで頼りない男に
ニコニコしながら世話、つーかおもてなしをしてしまう伝九朗の姿は鮮明に記憶に残ってます。
「ぜひぜひ、演劇のほうにも出演して欲しいなぁ。」なんて思ってはいたんですけど
まさかこんなに早くその機会が来るとは!しかも、こんな小劇場でっ!!
有り難い話っす、ホントに(泣)
伝九朗は絶対ハマリ役と確信していたんですが、プログラムに
『俺は負けると分かっている戦いに、命をかけて突っ込んでいく奴が好きなんだ。』
この言葉を聞いた時に、この主人公は生まれた。
だそうで、自分が勝手に思い描いていたイメージとはだいぶ違う方のようです。
この日のソワレは、松緑さんと主宰の西森英行さんのポストパフォーマンストーク付きで
そう言えば着替え終わって登場した松緑さんのいでたちは
キャップのツバを後ろに被り、ジーンズに先の尖ったブーツ。がたいもイイから少しコワッ!
だいぶ以前から親交のある西森さんもワルのイメージらしく、松緑さんご自身も
『オレがイイ人やってもねぇ、やっぱワルでしょ。』だって。そ、そうなんだ。
その後、『歌舞伎の稽古は通しでやるのに、こういう芝居の稽古は場面づつだから苦労した。
前の場面で怒るキッカケがあるのに、それ抜きで怒れって言われてもできないから!』
など、畑の違うお互いから見た関心した事や苦労した話が続きまして
最後は松緑さんへ、今回の役について
『あらゆるエネルギーに反発してでも、最後には自分一人が立っていられる―。』
『孤高でありたい。』
歌舞伎で見せるあのドでかい見得は、そんな意気立った内面から出てくるんですね。
松緑さんという人が少し解りました。
お話聞けて本当に良かったです!