テーマ:『義経』(332)
カテゴリ:テレビ番組作品
額に矢が突き刺さる。
馬上の木曽義仲、地面に転げ落ちる。 朱色の夕陽を浴びながら、 最期に笑顔さえ見せている。 都を出たときの四千騎さえ、もはや居ず、 付き従うは、盟友・今井四郎兼平のみ。 共に戦場を駆けた巴御前には、 落ちのびよ、と別れを告げた。 木曽を出てからの自分に思いを馳せている。 平家を追討し、将軍まで登りつめ、 一体、どこで誤ってしまったか。 されでも、彼は笑顔である。 別れる巴にも笑顔である。 楽しかった、と明るい笑顔で彼は言う。 後白河法皇を救い出し、 堂々と都に凱旋するは源義経。 叔父、行家は、ぬけぬけと舞い戻り、 義仲を呼び捨てにし、悪口雑言を吐く。 息子・義高を人質にしてまで、 守ろうとした義仲の気持ちなど見向きもせず。 誰も義仲の都での行いを咎めもできず、 義経もまた、義仲と止められなかった。 一族同士の戦は、 血の犠牲なくして終わらないのだ。 どこで誤ってしまったのか。 額に矢が突き刺さる。 馬上の木曽義仲、地面に転げ落ちる。 そんな人生を望まなかっただろうに。 ただ、源氏の棟梁として、上洛を望んだだけ。 平家一門もまた、 栄華を信じて疑わなかっただろうに。 だが、頼朝、義経を生かしたことが、 過ちの全てとは限らない。 例え彼らがいなくとも、 平家の驕りに歴史は、別の「彼ら」を用意しただろう。 そんな人生を望まなかった。 九郎義経は苦悩する。 落ちた平家が残した福原の屏風も、 義経に背を向けている。 どれだけ戦に勝とうが、 彼の人生は望まぬ方へと進んでいく。 楽しかった。 義仲は巴にそう言った。 本当に、楽しかったのだろう。 過ちはあっただろうに、 重い鎧のまま、壮絶な死を遂げた、 その最期は無念ではあったが、 人生は本当に楽しかったように見える。 久しぶりに会った母、常磐御前は、 相変わらず慈愛の目を義経に向けている。 立派な源氏のもののふに育った息子を 誇らしく思えども共には暮らせないのだ。 ままならぬ、人生である。 額に矢が突き刺さる。 馬上の木曽義仲、地面に転げ落ちる。 それでも彼は、巴との別れ際、 楽しかったと、笑顔で言った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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