確かめるように、
確かめないと、
わからなくなるから、きっと、
私はドミノ・ハーヴェイ、
何度も自分の名を言うのだ、でないと
わからなくなくなってしまいそうなのか。
きっと、もう、わからなくなっていたのだ。
自分、というものが。

バウンティ・ハンター。
逃亡犯や仮釈放中の犯罪者の拘束が仕事。
賞金稼ぎ、という仕事の中身は、
まだ「法」の側に位置する。
もしドミノがそのまま、
普通に、高校、大学を卒業して、
普通に、結婚していたら、
彼女は全く別の世界にいたはずだ。
彼女が吐き気をもよおすような世界、
そう、彼女が言うとおりに、
世界は、3つに別れている。
もしかして、3つ以上かも知れない、
ただ、普通の世界とは違う世界がある。
ショットガンを手にして、
初めて賞金稼ぎの仕事をしたとき、
血が沸き上がるような実感を感じていた。
その実感はきっと、
生きている、ということ。

生か、死か。
コインが宙を舞い、空を舞う。

1000万ドル強奪事件。
FBIの捜査官から取り調べを受けるドミノ。
ベトナム帰還兵で父のようなエドと、
凶暴だが、シャイなチョコ、
二人の相棒はもう殺されてしまった。
彼女が語りはじめたのは、
彼女しか見えない事件の真実。
世界の狭間にいたのだ、ドミノ・ハーヴェイは。

トニー・スコット監督作品。
汗くささを感じさせる場面と、時間軸の錯綜。
細かく編集されているのが見てとれる。
ややもすれば冗長で、散漫。
茫洋とした記憶の断片、
世界を3つに区切ったドミノ・ハーヴェイ、
生きている実感とは、どういうものか。
命のやりとりの中でしか見いだせないのか。
自分の世界だけ信じられれば、
おそらくはもっと、確たるものなのに。

キーラ・ナイトレイ、
赤い唇と白い肌、強い瞳でドミノを演じる。
彼女のドミノはスリリングだが、
同時に知的で繊細な側面を併せ持つ。
特異な人生を歩むヒロインというよりは、
人の内面の普遍的な葛藤を見せてくれる。
だからこそ、彼女のキャスティングがはまる。
存在感を示したのは、相棒役の二人、
ミッキー・ロークとエドガー・ラミレス。
アクの強さなら、彼女を越えただろう。

確かめるように呟くのは自分の名前。
ドミノ・ハーヴェイ。

世界は、3つに別れている。
普通の世界だけではなく、他にも世界がある。
だからこそ、1000万ドル強奪事件は、
多様な人間が絡み錯綜した。
ルーシー・リュー演じるFBI捜査官が
「引退しなさい」とドミノに言う。
勿論、バウンティ・ハンターを指すのだろう。
だがもうひとつ、意味を感じた。
あえて言葉にするならば、
「普通に戻ってきなさい」とでも言おうか。
実在したというドミノ・ハーヴェイ。
35歳で死を遂げたという。
他人の目からそこは危険だから、
安全な場所に戻ればいいと思うだろう。
他人は自分ではないのだから。
他人の目に映る自分もいる、だから曖昧だ、
自分というものは。

映画の最後に本物のドミノの笑顔に会う。
笑顔だったのだ、確かに。