勝算はあるのか。
源義経、兄、頼朝に存念を示すため、
その手に刃を手にしていた。
堀川の屋敷に夜討ちをかけてきた、
土佐坊昌俊を斬首する。
法皇からもらった所領に、
地頭をおいて義経を追いつめた上、
ついには刺客まで送ってきた。
密かにではあれども、
全ての意図は誰の目にも明白である。

「もはや、これまで」
頼朝は待っていたようである。
意志の疎通のないままに、
深い溝だけがどんどんと深くなっていく。
結論が必要だったのだ。
ただ深くなっていくばかりの溝、
もう、埋められぬのだと。
源義経の存念ははっきりと兄に伝わる。
伝わったときから義経にとって、
鎌倉殿ではなく、頼朝、になっていた。

勝算はあるのか。
土佐坊昌俊は刃を持ち義経を狙う。
堀川夜討、
予期していた義経郎党が応戦、
静や萌もまた刃を持ち戦いの場にいる。
戦上手の源義経、難なく戦い、
あえなく捕らえられる土佐坊昌俊、
褒美をもらうため義経を狙ったと言う。
自分のためではなく、年老いた母のため。
源行家が馳せ参じる、
彼もまた待っていたかのように。
義経と頼朝の決定的な亀裂を。

ついに下された頼朝追討の院宣。

埋められぬ溝に架けられた橋は
骨肉の争いのため。

義経、行家に院宣を出しながらも、
後白河法皇たちは考えを巡らせている。
勝算はあるのか。
義経には地の利があっても、
頼朝は10万の軍勢を引き連れてくる。

勝算のない戦。
だが、義経は意は決している。
従う郎党たちの意も決している。
戦は勝たねばならぬもの、
だが、勝算はなくとも戦う戦もあるのだ。
堀川夜討、土佐坊昌俊は、
源義経が戦上手なのを知っている。
だが年老いた母のために、
彼は刃を持ち、京にやってきた。

勝算のない戦であっても、
戦わなければならない場合もある。
源義経、戦上手で魅力溢れる、
前途洋々たるはずの若き青年は今、
刃を持たねばならぬところに追い込まれた。
持たねば捨てねばならなくなる、
彼の思い描く新しい国を作る夢を。

だがその決断はあまりにも若すぎる。