出会うのも縁、惚れるのも縁、
そしてこの時代、ここに生きるのも何かの縁。
戦国の世、上も下も見る間に変わる、
明日をも知れぬ命である。

縁とは不思議なもの、
歴史に名を残す一組の夫婦の物語が始まる。
織田、豊臣、徳川と主が変わっても、
誠実さ故に生き残ってきた山内一豊と
夫とともに戦い続けた千代の物語。
司馬遼太郎の軽快痛快な原作は、
歴史小説の枠を越えて楽しめる作品だった。
争いを好まぬ嘘偽りの少ない一豊と千代
大石静脚本はどんな二人を見せてくれるだろうか。

「一豊」「千代」

川辺に二人はお互いの名前を記していた。
顔だけではなく音と文字をも交換する二人、
縁ある者がここに集う
一豊は自ら千代の傷に薬を塗っている。
幼い千代は彼と彼の家臣にもしかと一礼する。
祖父江新右衛門と五藤吉兵衛、
一豊とともに彼らもまた
千代との縁を結んでいたのだ。
少女の気丈な物腰を優しげに見つめていた。

縁なき者はただすれ違う、
顔も名前も心に刻まれることなく。
だが縁ある者、たとえ短き時間でも、
その出会いは人生を左右する。

父と母と亡くした千代は、
一豊に紹介されて彼の母、法秀尼を頼る、
夫を亡くした彼女と千代は
「生きていく」という基本の部分で、
自然のことのように心を通わす、
もう、人生のただの通過点ではなくなっている。

そして一豊は、籐吉郎と出会い、
敵である織田信長と出会い、槍を向ける。
だがその槍は信長の身体を貫かず、
彼は信長の敵を討ち取っていた。

縁ある者がここに集う

正直過ぎる一豊は
信長の前で信長を仇と堂々と言う。
主の気性を誰よりも知る新右衛門と吉兵衛
全くもって気が気ではない。
だが軍神の如き姿を見て見方したと、
そう述べる彼に嘘偽りはない。
秀吉にも家康にもそうであり続け、
そういう彼を千代も家臣たちも好きになり、
そういう彼だからこそ信頼を得て、
決して早くはないが大名に登り詰める、
そんな物語の始まりがここにある。

こんな時代だから惚れた男に、と
籐吉郎は信長に仕える訳を一豊に話していた。
こんな時代、戦乱の世、
明日をも知れぬ命である、
だがそれはいつの世も変わらない、
脚本家は戦国と現代をだぶらせようとする。
こんな時代だから。
だから生きていく理由は心の中に。

こんな時代だからこそ。

まるで母娘のように法秀尼と千代は、
楽しそうに笑い楽しそうに話している。
たくさん食べて大きな声で話をして、
命はそんなふうにすることで十分輝くのだ。

出会うのも縁、惚れるのも縁、
そしてこの時代、ここに生きるのも何かの縁。
縁がなければ人はすれ違う、
縁を掴みそこねても人はすれ違う。
縁を掴んだ二人は手を取り合い生きていく。
そんな物語が始まった気がした。