●●●スターシップ・トゥルーパース
敵は虫である。昆虫型宇宙生物、アラクニド・バグズ。地面を埋め尽くしてやってくる大量のバグスに、地球連邦軍の兵士など一溜まりもない。巨大な蟷螂の刃に蟻のようで蜘蛛のような造詣、有機体というよりは無機物なデザインには、敵と認識した者をただただ殺しまくる残虐性を見る。バグズの尖った刃に、人間は次から次へと串差し状態。ロバート・A・ハインライン原作のSFを、ポール・バーホーベン監督が映像化。エロスとバイオレンスで定評ある監督は、名作SFの原作も眼中の外のようである。映像化する場合、原作の意図も勿論大事であろうが、バーホーベン監督は映像化することによって、全く違う意図を与えてくれている。人種、男女差別はないが、軍歴のある者だけが市民権を得る近未来。大した戦争が勃発していなければ、軍歴は免許のようなものであっただろうが、銀河全体に殖民をはじめていた人類は、先住民にバグスのいるクレンダス星という地雷を踏んだ。全面戦争への突入はバグズの奇襲攻撃から。戦争を始めるのは兵士ではない。だが戦争をするのは兵士なのである。主人公のジョニー・リコも高卒の青年である。りりしい女性陣もまた串刺しにされるには若すぎる。国のために命をかけて戦う姿が、どうのこうのと言うお涙頂戴な演出はない。主義主張を語れるようなテーマ性はないし、B級の誉れ高い戦闘シーンは見せ場にはならない。だが、ウジャウジャやってくる敵が気持ち悪く、残虐で命という概念が全くない。だからこそ、戦争というのはそういう敵の中に、若い命が放りこまれるものだとわかる映像になっているのである。しかも兵士は立派に戦っている。登場人物たちが、幼く等身大の若者だからこそ、まるで、ブラックジョークに見えるのだ。映像化によって描きだされたのは、戦争という、ブラック・ジョーク。話は映画から少しそれるが、映画のレビューをまとめる中で、司馬遼太郎「坂の上の雲」の原作で、203高地の描写をかぶるような気がした。詳しいことを書く力量はないが、旅順攻略の軍の方針と言えば、兵士が機関銃に向かって進んでいくというもの。死体の上に死体が折り重ねるような戦闘だと、書かれていたように記憶している。同作を参考にしたと言われる映画「二百三高地」では、兵士の葛藤もしっかり描かれている。バーホーベン監督が描いた本作品の戦場と、重なるところがあるのではと思うのは穿ちすぎだろうか。バグズとの戦闘に、若者たちは熱を帯びたように進んでいく。国家もまた英雄志願の若者を過大な宣伝で募集する。アメリカ国旗がたなびく場面はブラック・ジョーク的名シーンである。ストーリーはともあれ、バグズに関する造詣や設定は見事である。アメリカ公開は1997年。「2」に続き「3」公開の話も伝わってくる。「エイリアン」「プレデター」などと一線を画し、鮮烈な印象を与える宇宙生命体であろう。そして、希有な反戦映画のひとつ。