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夢先生の玉手箱-annex

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カテゴリ:子供の気持ち
夢玉通信の生徒のお母さんから、お子さんの友達関係の相談を受け
私は、今から20年ほど前に見た女の子を思い出した。

大人の目には、完璧なよい子と映るように演じている「よい子」の素顔に
生徒の達の間にただよう不穏な空気を読めない担任は、気がつかない。
このような「自作自演のよい子」たちは、クラスメイトに自分に投票するように言って
学級委員に立候補し、権力を手に入れ、
友達の輪をかき回すことが好きだ。

Yちゃん、Aちゃん、Uちゃんという3人の仲良しグループに、
「自作自演のよい子」は、「一緒に遊ぼう」と入ってくる。
しばらくすると、YちゃんとAちゃんだけに
「ねぇ、Uちゃんって自分勝手だよね。
 一緒に遊ぶのやめようよ。」と提案する。
ここでYちゃん、Aちゃんが、
そんなことないよ。と言えればいいのだが、
3、4年生という年齢では、そう言える子は少ないらしい。
私の生徒の一人は、そのような子のことを、自分がない子と言っていた。
自分がない子たちは、なんとなく力のある「自作自演のよい子」に
くっつくという図式らしい。

今から20年ほど前、大手で修行中の私は、
全国の生徒を集めて行う2泊3日のサマーキャンプで
「自作自演のよい子」を初めて見た。
Iは、グループリーダーとして班を完璧にまとめ、
そのグループについた私ともう一人の講師も
なかなかやる子だな、という印象を初日が終わるころには持っていた。
Iは、当時私が担当していた教室に違う曜日で
他の講師が指導していた生徒だった。
Iの班には、同じ教室の同じクラスからもう一人Mが参加していた。
参加者は、夜寝る前に、その日の感想と反省を書いた日記を書いて
班長がまとめて担当講師に提出することになっていた。
ところが、Iが集めて持ってきた日記は一冊足りない。
「あれ、一冊足りないけど、出していない人がいるんじゃない?」
「Mが、まだ終わっていません。」
「そう…じゃぁ先生が後で取りに行くね。」

30分ほどしてIとM、そして他の女の子4名がいる部屋に行ってみると
Mがいない。
「Mがいないけど、どこに行ったの?」
「トイレに行きました。」
「そう、もう消灯だから寝なさいね。」
「は~い」
彼女たちが早く寝ることがないことは、こちらも百も承知。
注意はするが、夜中のおしゃべりも、楽しい思い出の一つだ。

部屋から一番近いトイレに、Mの姿はなかった。
もう一人の担当講師と手分けしてMを探す。
Mは、声をころして泣きながら私たち講師が宿泊している棟のトイレの一つに
閉じこもっていた。
時折、しゃくりあげる声が聞こえる。
「M?どうしたの?出てきて、何があったか話して。」
しばらく語りかけると、
「…部屋に戻りたくない。」と返事をした。
「嫌だったら、戻らなくてもいいよ。」
ようやく彼女がトイレから出てきた。
「何かあったの?」ともう一人の講師がきくが、
答えようとしない。
部屋で何かがあったことは確実だ。
「先生、とりあえず彼女を私たちの部屋に連れて
 いってくれますか?」
「先生は?」
「私たちの部屋に彼女を泊めたのでは、
 彼女がこのキャンプで楽しい思い出をつくれなくなりますから。」
私は、自分の生徒がいる別のグループの班の部屋をノックした。
中から、しっ、早く布団に入って。と声が聞こえてくる。
「Rいる?」
「あっ夢先生?」
ドアを開けてRが出てきた。
「大丈夫、寝てないのを怒りに来た訳じゃないから」
安堵した顔になる。
「実は、ちょっとグループで同室の子とトラブった子がいるんだけど、
 あなたのグループに入れてやってくれないかな?」
カンのいいRは、「OK。で、その子にいろいろ聞いてもいい?聞かない方がいい?」
「任せる。」

私は、自分の部屋に戻った。
相変わらず、Mはうつむいたままだ。
「今から先生は、Mを違うグループにする」
きょとんとした顔をするM
「いいよね?大丈夫、先生が勝手にあなたのグループを変えるんだから
 あなたは、誰からも何も言われないよ」
Mは頷いた。

翌朝、朝食前に体操をするために広場へ移動する途中、
Rが寄ってきた。
「先生、Iって子、同じ部屋の子たちに
 Mの裁判をしよう、って言ったんだって。」
Mは、東海エリアから参加しているRの班の子と楽しそうに話しながら歩いている。
体操が終わり食堂に移動する時、
Iが私の側に来た。
「Mちゃん、班を変わったんですか?
 どうしてですか?」
「あなたには関係ない。
 先生が決めたこと。」
憮然とした顔をし目をつり上げたI、本来の顔が見えた。

朝食が終わって午前中の外国人講師とのアクティビティが始まった。
私の姿を見つけた、Iのグループの生徒が二人、駆け寄ってきた。
「先生、Mちゃん、どうしてグループを変わったのですか?」
「どうして?気になることがあるの?」
二人は顔を見合わせる。
「Iちゃんに裁判やろう、って言われて、わたしたち嫌って言わなかったから
 Mちゃんが部屋を飛び出した…」
「そのせいで、私がMのグループを変えたと思っているんだ。」
「ちがうんですか?」
「ちがうよ。心配しなくても大丈夫。
 でも、先生は、あなたたちに嫌って言ってほしかったな。
 あなたたちがMちゃんだったら、嫌って言って欲しいでしょ?」
「うん。」
「だったら言わなくっちゃね。」

その日の二人の日記に
IちゃんにMちゃんの裁判をやろうと言われて、
嫌と言えなかったことを反省する文が書かれていた。
Mの日記には、その日の出来事、友達との楽しかった会話などが
書かれていて、ほっと胸をなでおろした。
最終日の朝、私は、Iを廊下に呼んだ。
「何ですか先生?」
「I、Iがしたこと、Mが何も言わなくても
 ちゃんと先生たちはわかっているからね。
 もうこういうことは止めなさい。」
「先生、私のグループの二人に何か言ったんですか?」
「どうしてそういう事を言うの?」
「だって昨日からあんまり話してくれなくなったから」
「先生には、二人の気持ちはわからないよ。」

キャンプから帰った翌日、
Iのお母さんからキャンプから泣きながら帰ってきた。
先生に虐められたと言っている。
どういう講師を雇っているんだ、とクレームがあったから、
すぐに電話をして謝罪をするようにと上司から言われた。
「私が、Iさんのグループを担当した講師です。
 Iさんは、何とおっしゃっていますか?」
「先生が他の生徒にIを仲間はずれにするように言ったと言っています」
「お母さんは、大人である私がそのようなことをすると
 本気で思われていらっしゃいますか?」
「開き直るんですか!何もなかったら娘が泣くわけないじゃないですか。
 娘は良い子なんです。」
この親に、彼女がしたことを告げても
信じないどころか、他の生徒に怒りを向ける可能性がある。
私は、Iが可哀想だったが、何も言わないことにした。

私は悪くない、という子に
我が子は絶対に悪くないという、親
自作自演に気がつかず、生徒のうわべだけしか見られないKYな先生、
その子はどうやって12歳までにしなければならない
してもいい事、悪い事、しなければならない事を学ぶ社会性の
トレーニングをすればいいのだろうか?

中学に入りIは、不登校になったと、
Iを指導していた講師から聞いた。
彼女の自作自演のよい子ぶりは、中学生になった同級生には
通用しなかったようだ。





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最終更新日  2008年07月09日 19時37分57秒
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