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カテゴリ:ニュース・政治・戦争
フィラデルフィアの街は”Kelly & Edwards”と書かれたサインを持って歩いている人で一杯だった。ハロウィーンと言えば街行く人が色々な仮装をして人々の目を楽しませてくれたり、皆で恐い映画を見に行ったり、はたまた子供達が近所のドアを叩いてキャンディーを貰ったりしてその様子を眺めるのもまた楽しいことのひとつであるが、今年は街に出たら大勢の人々があちらこちらでサインを持って”Honk for Kelly!”(ケリーにクラクションを! ・・・ アメリカではお祝いや応援したい時に車のクラクションを皆でならしあったりする)と歩き回り、街がクラクションで賑やかになる。私の車もブッブッブ~と負けずに鳴らしてみる。皆がガッツポーズをする。こんな情景はフィラデルフィアだから見れるのであって、他の街はどうなのだろう、と不思議に思う。
フィラデルフィアは長い間民主党をサポートしている、リベラルな人々が多い街で、大統領選が始まった頃は街をあげてハワード・ディーンを応援していた。ペンシルバニア州の州知事は民主党のエド・ランデェルという男性がしているが、彼は以前フィラデルフィアの市長であった。それまでフィラデルフィアといえばアメリカで5本の指に入るくらいの治安が悪い街として有名だったのだが、彼が市長になってからあっという間に治安が良くなり住み易い街になったのだ。それから思いっきり人気が出た彼は一気に州知事になる。その後も評判が悪いながらも民主党のジョン・ストリートがフィラデルフィアの市長を引継ぎ、相変わらずの民主党人気を見せている。 他にもフィラデルフィアが民主党をサポートする人々が多いのには理由があって、まず、黒人が人口を多く占めていること、そしてゲイの人々が多いことも挙げられる。共和党はやはり金持ちが基盤とでも言えない訳ではないので、低所得層にあたる黒人家庭にとっては教育に関しても健康保険に関しても共和党の政策はサポートに乏しく、自然と民主党を応援するようになる。カソリックが仕切る共和党をもちろんゲイの人々が好む分けなく、自然と民主党を応援する。アメリカ中部と違い、様々な肌の色の人が住むこの街では外国人に対する許容性もあり、フセイン/ビンラディンは別にして今回の戦争で様々な被害を被っているイラクの人々に同情し、低所得層は教育も健康保険も間々ならないというのに理由のはっきりしない戦争のために税金が使われたことに怒る人々が沢山いる。 テレビを見れば今回の大統領選は前回よりも随分盛り上がっているというのは、自ずと分かる。MTVやFUSEなどの若者向け音楽番組でさえ堂々と「投票しよう」キャンペーンを繰り返し、今人気のシンガーを使って若者に興味を駆り立てようとしている。特にセックス等若者が関心があるトピックについての両候補者の意見を紹介していかにこれからの実生活に影響がでてくるか比べたりしているが、アーティストの殆どがデモクラットなのでどのメッセージもなんだかデモクラットを応援しているように聞こえる。その上、MTVはケリー候補に何回かインタビューをしているがブッシュ現大統領にはインタビューを断られ続け、ケリー候補とのインタビューしかホームページには載せていない。これがいいか悪いかわからないが、なんとなく民主党寄りを醸し出している。 ハリウッドも例外なく、沢山のアクター・アクトレスが民主党よりなので誰のインタビューも何もかもがケリー候補を応援しているように見える。マイケル・ムーアの「華氏911」も信じられないくらい大ヒットし映画のチケットもなかなか取れないぐらいであったし、はたまた最近にはDVDも出て、沢山のリベラルな人々の目に触れる。当然ながらこの映画はリベラルな人々の目に触れるのが普通で、残念ながら本当に見てほしい保守派の人々の目には触れず文句や批判だけが横行する。これはアメリカだけでなく、日本でも同じである。どちらにしてもこんな映画が選挙前に人気になってしまうぐらい、人々は次の大統領に興味があるし変わってほしい、と真剣に働きかけたい人々が沢山いるということだ。 街を少し走れば、沢山の車のバンパーに”Kelly & Edwards”と書かれたステッカーが貼られていることに気づく。毎日ここで暮らして、今、ゆーゆーを運ぶためにがんがん車で道を行く私でさえも"Bush & Cheney"と書かれたステッカーを貼った車は一台しか見たことがない。街頭でサインなんて全く危険である。一歩外に出れば"Kelly & Edwards"サインだらけであるのに、一体どこの誰が"Bush & Cheney"をここで掲げてくれるのだろうか・・・。ちょっと見てみたい気がするが、いやいやその人のことを思って余計な応援はしないようにしてみよう。 さてこれだけ大勢の人々がケリー候補を応援している訳であるが、何故か地元フィラデルフィア「ベストシンクタンク」に選ばれている私の職場は---共和党寄りである。一体誰がそのベストシンクタンクを選んだんじゃ?と私でも突っ込みたくなるが、それがお金だったにしろ何にしろ、選ばれてしまったものは選ばれてしまっている訳で、大体この街の人々がうちの研究所を知っているかどうかも疑問でもし知ったとするならば、あっという間にそのタイトルから引き下げられることは請け合いである。だから、あんまり目立たないようにこの研究所はひっそりと運営しているように思う。 リベラルが多いと言われるユダヤ人であるが、私の研究所はユダヤ人だらけなのにとっても保守派で、いわばネオコンである。最近行われている講演会ではラムズフェルドの元で働いてたことがあったりするゲストスピーカーなんぞが淡々とケリーの批判をし、いかにアメリカが世界から重要とされていて同盟国との関係が強いか主張する。ヨーロッパや南アメリカの国々にどんなに愛想をつかされていても、オーストラリアは一番の同盟国であるし韓国も日本もモロッコもトルコもあるからいいじゃないか・・・ケリーさん、あんたアメリカが愛想をつかされて同盟国が少なくなっていると言っているがうそじゃぁないか、と続く。イベント会場はもちろん、歴史あるフィラデルフィアの共和党会館、あまりにも分かり易い演出でこれもまた保守派の人々が喜んで聞く内容なだけで、リベラルな人が興味を示す術も無く空しく内輪受けで終わっていく。関係ないが、この歴史ある共和党会館は十数年位前まで女性立ち入り禁止だったそうだ。そのくらいアメリカにしては珍しく、時代錯誤もいいところのルールがまかり通っていた場所だ。 そういうわけで職場こそひっそりレパブリカンであるが、職場を出れば不思議とデモクラットにしか会わない環境であるからこれはどう考えてもデモクラット人口の方が多いわけで次回はケリーが大統領になるんではないかという錯覚に陥るわけだが、投票日を前日にして私はブッシュが勝つのではないか、と未だ思ったりする。私が知っている限り、ブッシュが嫌いな人々は私を含めて選挙権のない人々ばかりで本当に選挙権がある大部分の人々は白人社会で生きている田舎の人々ばかりで彼らはブッシュのような分かり易い「勧善懲悪」がテーマで演説ができる人を愛している・・・のはほぼ間違いないと思う。黒人人口もゲイ人口も投票人口全体のほんの数パーセントしかいないわけだし、教育も保険も都会に住んでいなければSo What?的なイッシューであって、で、悲しい事にアメリカは大部分が田舎であって都市は小さく大した事ないわけだ。ケリーが言う「ミドルクラス」(中所得層)のサポートだって、都市にいれば生活費に直結する苦しい問題であるけれど田舎に住んでいれば食費も日々のパーキング代だとかそんな細かい出費でも違うわけでそこまで苦しむ事もなく、あんまり変わることはない。で、「悪」をやっつける、というインパクトの演説を見れば「そうだ、アメリカは善だ、やってやるぞー」みたいな、そんなことぐらいしか焦点にならないような気がする。 かといって、デモクラットの人々が心からケリーを立派な大統領候補だ、と思って応援しているわけではない。はっきり言って、ケリーが当選したとしてもアメリカのイラク政策は対して変化はないだろう、と私は見ている。ブッシュが人気の理由の一つは「テロに屈しない」という態度であり、それが良い結果を起こしていないにしろ、今ここでその言葉の元にイラクから引き下がらないという行為が「テロに屈しない」ということらしいのでもしここでケリーが「イラクから撤退する」とか何とか言ってしまえば「テロに屈する」と言うように選挙民に思われてしまうのでそんな政策を目標にするわけがない。もし当選したとして、そういう余計な事に配慮して完全撤退ならぬ「まぁまぁ撤退」とかになってしまえば、結局「完全撤退していない」ということで今さらに凶暴になってきているアルカイーダ系のテロリスト達がさらに暴力をふるうだろう。なぁなぁの中途半端なアメリカ軍撤退と共に同盟復活と称して他のヨーロッパの国々などの元同盟国(フランス・スペイン等等・・・)の軍を呼び戻してしまえば、多分、アルカイーダ系テロリスト達はもっと勢いに乗るだろう。イラクから完全撤退、といえる程ケリー、エドワード共々勇気のある人々ではないので、もしかしたら今以上の「対テロ」の可能性だって起こるかもしれない。(注・しかしこれはブッシュが再選すれば、対テロが減る、という意味ではなくあんまり変わらないということが言いたい)デモクラットの人々はただ単にあの単純でアホ臭いブッシュが嫌いなだけで、ケリーを取り合えず推そうと必死になっている。少なくとも、ゲイの人々はケリーが大統領になった方が幸せになれるだろう、結婚が法規制されない方向に向かうだろうから・・・。 そんなことはともかく、ゆーゆーを折角コスチュームに包んでハロウィーンの日、ショッピングモールに行ったにも関わらずなぜかその日はあのどでかくていつも込んでいるショッピングモールがすっかすかだった。パンプキンを着てきょろきょろしているゆーゆーに注目してくれる人は別の日と違って昨日は殆んどおらず、ノリノリと私だけがあぁ、かわいいねぇ、と笑顔でゆーゆーをあやしながら家族3人のささやかなハロウィーンを楽しんだ。散歩がてらのちょっとした買い物を終えてダウンタウンに向かうと、大勢の若者や年配の人々が”Kelly & Edwards”のサインを持って、あちらこちらの交差点に立ち「投票に行こう!」と呼びかけている。市役所の広場にも、ブロードストリートのど真ん中の対向車線の仕切りの上にも、ウォールナットストリートの角にも、サウスストリートの角にも。そこら中を走る車からクラクションが聞こえてきて、まるで、地元のフットボールチーム、イーグルスが試合に買ったときのような盛り上がりを見せている。4年前には全く見なかった光景だ。 *** 次の日職場にでるとJanが「今までハロウィーンと言えば70人ぐらいの子供達がお菓子を貰いに来ていたのに・・・、今年はたったの23人だったわ。」とこぼしていた。前年と違って全くハロウィーンとして盛り上がりを見せていなかったフィラデルフィアは、街行くどの人の会話も明日の選挙で話は持ちきりだった。 →→去年のハロウィーンの日記に行く→→ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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