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カテゴリ:ほんとのことだけど…お話
と、ある方のページにここ何ヶ月もしぶとく「正字正かな」(古文のような書き方)でコメントをつけているネット右翼さんがいた。と、ある他の方との争いに疲れたのか堂々と意見表明できるよう最近のコメントに自分のホームページをリンクしていた。これはおもしろそう、と思い彼のページを拝見してみると6年も前からホームページでウェブ日記をつけているなかなか几帳面な人だった。ページ始めの1999年の日記は普通の文体で始まり、一日の出来事や食べたものが短く記されていてネット右翼さんには珍しく私生活をのぞかせた、ささやかなホームページだった。
コメントでは古い文体を几帳面に使っていたので年配の方のようにも見えたのだがしぶとくコメントを残しているところを見るとあまり年を取った人のする行動ではなさそうだったので、これは多分そうとう練習したか、古文変換ソフトウェアだよな、と容易に想像できた。だから1999年の日記の普通の文体を見た時はなかなかうれしかった。それではこの古文書きがいつからはじまったか、おまけになんでこんなに一人の人のページに粘着するような人物になったのか、この機会に分析してみようと思い軽く彼の日記に目を通す。すると彼が古文変換ソフトを見つけ使い始めたのは2002年から、やはり練習が必要だったらしく繰り返し変換を気にして日記をつけていた跡があった。 もう一つ目を引いたのは彼の日頃の買い物リストに大量のアニメもののパソコンゲームが書かれていたことだった。秋葉原に通っていることも書いてある。まさかとは思ったがこう私生活が書いてあると、他のネット右翼さん達も同じような感じなのではないかとイメージがダブってしまう。年齢も私と同じくらいのようだし一生懸命働いているようでもあるし普通の人ではあるのだが、秋葉原のパソコンショップで2年ほどアルバイトをしていた私にはこの「アニメもののパソコンゲーム」にたかる人々がどんな感じであるかすぐ思い浮かんでしまう。 *** カスタマーサービスカウンターで働いていた私は秋葉原に来る、今まで自分の人生で見たこと無かったような種類の人々がひしめいているこの場所にしばらく馴染めなかった。流行遅れのシャツや色の薄いジーンズをはいた不思議な格好の人々、道を歩くキャンペーンガールを必死にカメラに抑える人々、異様に込んでいるSEGAのゲームセンター、古くて小さくて汚いお店が立ち並ぶ通り。そして新発売のゲームや駆け出しのまだ名前も知らないアイドルの挨拶に群れをなす人々。 ポイントカードとクレジットカードを発行する私が所属していたサービスカウンターには様々なお客が来た。まだパソコンが25万以上する時代、クレジット破産しそうな人々にパソコン購入ローンを組ませて(で、購入後それを売らせて)現金返済させようとする取立て屋のおじさん達、そうやって不安そうにパソコンを買いに来るクレジット歴ぼろぼろの人々、または普通にパソコンを購入する人、子供のためにゲームソフトをプレゼント用にラッピングして欲しいとやってくるお父さんお母さん、そして買ったものの買い物ポイントを付け忘れたからカードにポイントを後付してもらうためにやってくる様々なタイプの人々。多分普通のお客さんだって沢山いたはずだが、こういう場所にいると奇怪なお客さんだけが記憶に残る。普通にパソコンや部品を買うお客さんは大体性質(たち)がいい。しかし、2Fにあったパソコンゲームソフト売り場からやって来るお客さんは皆怪しくて、アニメのキャラクターが描かれたTシャツを着ている人、そこら辺の女性の顔と体まで嘗めまわすように眺める目つきが異常な人、ときめきメモリアルのフィギュアをラッピングして欲しいというよい年頃の青年。2F付近の壁一杯に張ってある宣伝用のポスターに描かれた女の子達は皆頬を赤らめ、胸を露出し、お尻も見えそうなぎりぎりのスカートを着させられて目を輝かせている。パソコンゲームはこういう類のものしか置いてないのだろう、と思わせるようなフロアのデコレーションの仕方、そしてそれに引き寄せられた人々が集まり異様に込んだ売り場だった。彼らにとって女の子はあぁいう幻想でしかないのだろうと思う。 皮肉なことにそんな風に異様で馴染めない雰囲気の場所で、私は昔愛していた彼に出会った。背が高くてきりっとした目のイケメンだったが、パソコンと機械にとても詳しくて電機大学に通っていた。さすがにアニメパソコンゲームにははまっていなかったが、私と同じくRPGが好きでドラゴンクエストやファイナルファンタジーで話題が盛り上がったり、ゲーセンで遊んだりして秋葉原系のデートを楽しんだ。もともと機械に興味があった私は彼からめきめきパソコンという機械について学び、パソコンショップ勤務を利用して通なパソコンアクセサリーを沢山手に入れた。若くて純粋だった私達はお互いの全てを預けあって、初めて経験する真剣な愛に深く深く感動した。 記憶に残るお客さん達とは違って、甘くて楽しかったことだけがそんな恋愛の思い出として残る。アメリカに来て長距離恋愛を始めてから苦いことは沢山あったけれども、そういう苦さよりも、不思議な雰囲気の秋葉原から中央通りを歩いて上野に抜ける静かな散歩をしたこと、アメ横でぶらぶらしたり、上野公園の桜を仕事帰りに一緒に眺めたり、上野動物園に行ってみたり、浅草の方まで抜けて足が痛くなるまで歩いたこと、そんな春の思い出が何度も胸に蘇って来る。今週から一気に気温が落ちて寒くなったフィラデルフィアも今日から暖かさが戻り風が強くなった。あれから何年経っても忘れる事のない思い出の春。月日は経ちまた、新たな春が終わろうとしている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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