『日本百名山』に学ぶ山の表現 その51
今回は「石鎚山」を特別に繰り上げて紹介します。 /\/\/\[石鎚山]/\/\/\ 石鎚山の標高は、2,000mに僅か届かない1,982mで、この標高が西日本最高峰です。近畿の最高峰は奈良県大峯の八経ヶ岳の1,915m。九州の最高峰は、世界自然遺産の屋久島縄文杉で有名な宮之浦岳の1,936mで、この島ひとつで大峯より高いというのですから驚きです。 山は火山の噴火や断層面の隆起によって作られます。火山であれば溶岩の成分によって流れる角度と固まる温度が決まり標高が決まります。土地の隆起によるものであれば、地質によって山と谷のピッチが決まり標高が決まります。奈良と屋久島は離れていますが、地球規模のプレートから見れば似た条件下にあり、本州・四国・九州とも2,000mに少し届かない辺りで並んでいるのは、決して偶然ではありません。日本アルプスは3,000m前後。3,776mと突出して高い富士山だけが例外で、富士山は3つの火山が積み重なって、あの高さに至ったとされています。・私は四国道後温泉の共同湯に浸りながら、浴槽の中の装飾の円塔に刻んである、山部赤人の「至伊予温泉作歌一首並短歌」を眺めていた。眺めていたというのは、「皇神祖之 神乃御言乃……」というような万葉仮名だったから、むずかしくて読めなかったのだ。ただその中に「伊予能高嶺」という文字を見つけ、うれしくなってそこばかりみつめていた。 歌は万葉集の巻三322の歌と思われます。皇神祖之 神乃御言乃 敷座 國之盡 湯者霜 左波尓雖在 嶋山之 宣國跡 極此疑 伊豫能高嶺乃 射狭庭乃 崗尓立而 歌思 辞思為師 三湯之上乃 樹村乎見者 臣木毛 生継尓家里 鳴鳥之 音毛不更 遐代尓 神左備将徃 行幸處 およその意味は――国に出湯は多けれど素晴らしいのはこの地の湯。石鎚山の神事にて言上げなされし湯の辺には、代を重ねるモミの森、古来変わらぬ鳥の声。いつの世までも遥かなれ。御幸なされしこの場所も。 遠き世の万葉歌人山部赤人の予見通りに、道後温泉と石槌山は全国に名高い観光名所となりました。・伊予小松駅へ出るため乗ったバスが、大きなジグザクを描いて黒瀬峠の上まで登った時、ふと見ると、たそがれの空に、ぼかしたような石鎚山の姿が遠く浮かんでいた。ほんの一刻の眺めであったが、感動した。それは今日、あの頂上に立ったとは思えない、遥かな崇高な姿であった。 黒瀬峠は石槌山の北にあります。1972年にダムが建設され、黒瀬峠の下に黒瀬湖が出来ました。私は往路でしたが、この道から湖越しに見えた石槌山脈の姿に感動しました。ひっそりした明け方で、日の光が空と湖面から山嶺を挟んで、壮麗な眺めでした。 /\/\/\/\/\/\/\/\▼黒瀬峠から見た石鎚山脈