車のなかの光景&小説コメント
車のなか。車を運転しない私にとってそこは、とても興味のある場所なので、プライベートは認めつつ、「公共の場」だと思っている。会社の裏道は業者さんの車が停まっていることが多い。よく停まっているポルシェがある。ある日、珍しく人がなかにいた。通りすがりに覗き込んだら、男性がコンビニのお弁当を「腹へって死にそう!!!」な勢いで前傾姿勢でかきこんでいた。がっかりである。近所のスーパーから出てきたとき、通り過ぎる瞬間の車のなかから「ワンっ」と鳴き声がした。「まあ、本当にワンて鳴く犬がいるのねー」ちょっと苦笑しながら暗がりの運転席をちらりと見た。CMですっかりお馴染みのチワワ…を両手で鼻先に持っている50代の男性がいた。「おいおい、あんたかい」今の鳴き声、そのワンちゃんより、外にいる私の方が反応してるんですけど。バスの窓側の席に坐っていると、同じ高さに、隣で信号待ちをしている車の運転手の顔があった。私はまっすぐ前を向いて坐っているのだけれど、なんとも云えない、覗き込みにくい雰囲気が漂っている。しかし、その空気に関心が強くなる。眼の端に映っている風貌は、明らかに≪スキンヘッド≫なのだ。「・・・・・・」どうしよう・・・覗いていいかな・・・。私は後ろを軽く振り返るフリをして、首を横に向けた。「・・・」サングラスと金色のゴツいチェーンネックレス。そこにいたのは、松●千春であった。覗き込んだりしてごめんなさい。*****「追い越しの恋」。その道を歩くその人は、いつも煙草を吸っている。その人とはいつもすれ違うだけ。1ヶ月ぶり位に、その人とすれ違った。知りもしないのに、互いの顔のうえに「あ、久しぶりだね」というニュアンスの驚きの色が拡がった。太陽をしょって歩いていた私と、太陽に眩しそうにしていたその人と。