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カテゴリ:Movie
『白夜』には「オペラ的な舞台転換」が演出手法の1つとして使われている。ナタリアがマリオに運命の男性との出会いを話して聞かせる場面だ。
街を歩きながら、ナタリアは崩れかけた遺跡に腰を下ろす。画面ではほぼ右端に座り、その左にはホームレスが残していったと思しき焚き火の炎が見える。考えてみれば、道端で焚き火なんてちょっと不自然ではある。だがこの炎の動きと明るさは視覚的な効果をあげている。つまり、ナタリアがそれを見つめることで、炎が現在と過去をつなぐ小道具の役割を果たすのだ。 ナタリアが回想を始めると、カメラが左方向にパンニングを始める。するとそこは街ではなく、ナタリアの家の一室になる。ここで、部屋自体が奥のほうへ回転しながら移動する。実際には一度横に水平移動させたカメラを弧を描くようにして少し後ろに移動させているのだ。これで、部屋の様子が、最初は狭く、次に広い視点から見える効果が出る。 これはオペラの伝統的な回転舞台のちょっとした応用で、まさしくオペラの舞台を見ているような気分になる。オペラでは通常、歌手が舞台左端後方に座る。そして回想を始めると、舞台が回転し、奥から過去の舞台装置が現れる。歌手はそのまま舞台の右端へ移動することになる。舞台が45度回転し終わると、歌手は立ち上がって過去の舞台装置の中へ入り込んで演じるというわけ。 回想シーンは、部屋のドアを開けて、ジャン・マレー演じる下宿人が入ってくるところから始まる。ここの台詞進行もちょっと凝っている。回想シーンというものは、だいたいナレーションから始まるが、過去の場面になると、ナレーションを始めた本人も別の人間とその過去時制で直接会話するのが普通だ。だが、『白夜』では、盲目のナタリアの祖母とナタリアの会話は、祖母は直に会話し、ナタリアの答えは「現在のナタリア」が「私は~と言ったの」とナレーションで台詞をはさむのだ。 たとえば、こんな感じ。 下宿人が入ってきて帽子をとると、祖母がナタリアに「若い人? 年寄り?」と直接たずねる。ところが、画面の、つまり過去のナタリアはしゃべらない。ただびっくりしたように男性を見つめ、こぼれるような笑顔を浮かべる。そして「現在のナタリア」が以下の字幕のようにナレーションで答える。「私は答えたの…」 この場面はナタリアが男性に一目惚れする場面なのだ。彼を見たナタリアは、こんな↑に嬉しそうに微笑みかけ、それから、いきなり意識過剰になって髪の毛をいじって整えはじめる。 ナタリアのこの露骨な「気に入りブリ」は、市川版『細雪』で三女の雪子(吉永小百合)が何度も見合いをしたあげく、ついに「ジャストにタイプ」な男性にめぐり合ったシーンにそっくりだ。 ナタリアが惚れこんだ「若くもないけど年寄りでもない」顔はこれ。 40代になった そして、こちらは戦後日本で初めて封切られたフランス映画『美女と野獣』(ジャン・コクトー監督)に主演した、30代前半のジャン・マレー。 すごいな~。このジャンプーハットみたいな襟…(笑) どーでもいいけど、マレー君の顔にライト当てすぎじゃないですか? コクトー監督ぅ。これじゃまるでデヴィ夫人でわ…… 露出が飛んじゃってるのかと思いましたゼ。 <明日はコクトー作品を意識した、下宿人氏の部屋の小道具について紹介します> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.03.12 22:02:01
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