|
テーマ:映画レビュー(894)
カテゴリ:Movie(フランソワ・トリュフォー)
セザール賞10冠に輝いたフランソワ・トリュフォーの代表作『終電車』。ナチス占領下のパリで、芝居に情熱をかける演劇人たちと彼らの舞台劇を愛するパリ市民の姿を描いて、フランスでは大ヒットした。
あまりに楽屋オチ的なストーリーであるためか、その時代や演劇文化を共有しない日本人にはほとんど受けなかった。観客は最初は占領下でのユダヤ人迫害とレジスタンス運動がテーマかと思って見ることになるのだが、途中からパリの演劇人の真剣かつ不道徳な恋愛模様になってしまい、その型にはまらない展開に唖然とする。そして、それがたまらなく洒脱なパリっ子らしい映画なのだ。 まずは、予告編からご覧ください。 http://jp.youtube.com/watch?v=SXvxpMc2EfE これ見たら、まるでサスペンスのようでしょう? ところが、この予告編はまったく人を食ったダマシなのだ。それもこれも本編を見るとわかる。 映画はまず、占領下の1942年にフランスでヒットしたリュシエンヌ・ドゥリールの歌うシャンソン「サン=ジャンの恋人」で始まる。↓ http://jp.youtube.com/watch?v=PkwAhADSI18&feature=related この歌詞がなんともニクイ。以下映画の字幕から。 どうしてかわからないけど サン・ジャンのダンスホールに行った ただ一度のくちづけで身も心も夢中になった どうにもならなかった あいつの大胆な腕で抱きしめられて つい甘いささやきを信じてしまった あの眼で語りかけられて どんなにあいつを愛したことか サン・ジャンで一番の色男なんだもの わたしはうっとりして力も失った あいつに接吻されて もう考えもなくあげてしまった わたしのすべてを 口のうまいあいつがウソをつくたびに わたしは知っていた でも惚れた弱みさ もうどうにもならなかった あの大胆な腕に抱きしめられて 甘い愛のささやきを信じてしまった あの眼で語りかけられて どんなにあいつを愛したことか サン・ジャンで一番の色男なんだもの この歌は色男に惚れこんで、愛されていないとうすうす知りつつ自分のすべてを捧げてしまった女性の苦い思い出を歌っているのだが、ジメジメと恨みっぽくないところがステキなのだ。 あの人はもう私を愛していない 過ぎたことね もうこの話はやめましょう こんなふうにサッパリと終わっている。 この当時のヒット曲が映画の冒頭に流れることで、一挙に占領下のパリの時代へ観客を誘おうというトリュフォーの作戦(日本人にはピンとこないのだが)。 そして、物不足の中でパリの人々が劇場に殺到した様子が語られる。 このシーン↑は、芝居がはねたあと、終電車に乗ろうと地下鉄の通路を走っていくパリジャンの姿。 こうした当時のパリの雰囲気や、演劇人たちの生活を描くのに、トリュフォーは俳優の自伝を参考にした。そして、その代表格がもちろん… 名高いマレーのスキャンダル、対独協力派の大物批評家殴打事件も映画のワンシーンになっている(もちろん、ドキュメンタリーではないので、ストーリーにそって独自に脚色した逸話になっている)。 レストランで自分たちを攻撃した卑劣な批評家に出くわすところは、まったくマレーの自伝どおり。『終電車』では、主人公の俳優ベルナール(ジェラール・ド・パルデュー)自身への攻撃ではなく、マリオン(カトリーヌ・ドヌーヴ)に対する不当な批評にベルナールが怒ったことになっていた。 雨の中、批評家のもっていた杖を道の向こうに放り投げるベルナール。「この杖で殴ったら殺しかねない」とマレーが思ったためで、実際の殴打事件をかなり忠実に再現している(ジャン・マレーの批評家殴打事件については4月1日と4月2日のエントリーをお読みください)。 主人公ベルナールはこのように男気のあるまっすぐな性格。もともとは格の低い恐怖劇出身の俳優だったのだが、舞台での才能を買われ、マリオンが経営する伝統ある大劇場に引き抜かれてきた。そのときも、たまたま、 「ユダヤ人だから解雇するんですか!」 と劇場側に抗議してる役者を見てしまい、 「もしぼくが彼の役を取ることになるんだったら、この話はなかったことにしてほしい」 と言ったりする。そして、ベルナールは舞台を降りると、レジスタンス活動家ともコンタクトを取っている。 そんなベルナールなのだが、女性に対してはハチャメチャにだらしない。 劇場の若い女優ナディーヌにこんなふうに↓ 声をかけたりする。ところが、ベルナールはナディーヌにはそれほど燃えないらしく、あっさり口説くのをやめる。彼の本命はどうやら、劇場関係者の中でも圧倒的なオバちゃん度を誇るデザイナー(舞台の装置と衣装を担当する)のアルレットらしいのだ。 なぜ? とあっけに取られて見てるうちにも、ベルナールはオバちゃんを口説きまくり… そして、そのたびにコテンパンに振られまくる。 なんと、アルレットにはこんな、若くてカワイイ恋人がいたのだ! ありですか?? このカップル。 そんなこととは知らない(鈍い)ベルナールは… …なんてことを劇場の新しい演出家ジャン・ルー相手に言ったりする。「彼女」とはデザイナーのアルレット。本気? アルレットを知ってるジャン・ルーはさりげなくベルナールを諭したりして。 アルレットの若い恋人はとっても野心的。スターになるべく朝から晩まで、ラジオの朗読、舞台での演劇と仕事を入れまくり、積極的に映画のオーディションを受けている。 日本だと、たいていこういう野心的キャラは挫折するか、何らかの悲哀を味わい、平凡で才能もなく、ヒガミっぽい一般ピープルがそれを見て溜飲を下げることになっている。 だが、『終電車』では、見事にオーディションで大作映画の主役をゲット。売れっ子になるというハッピーな展開。 そしてアルレットも、出世した若い恋人と一緒に映画の仕事をしてハッピーに♪。アルレットの愛も相手の出世とともに確実に深まっている(実は上のキスシーンのときは、アルレットはそれほど本気ではなかったのだ)。いいなぁ、トリュフォー! さて、カトリーヌ・ドヌーブ演じるマリオンは有名な女優。劇場主で優秀な演出家でもある夫がユダヤ人だったため、逃亡したということにして、劇場の地下にかくまっている。占領下のパリで健気にも1人で劇場を支え、「この芝居が当たらなければ破産」というギリギリの状態で新作を舞台にのせようとしている。 その重要な芝居で自分の相手役に抜擢したのが、若く、才能あるれる役者のベルナールだったというわけ。夫は地下で2人の練習に耳をすませ、陰で演出の仕事を続けている。たとえば、役者のベルナールが、 と演出に疑問を呈すると、夜マリオンと相談して、ベルナールの考えにそった演出に修正するように指示を出したりしてる。 そんな夫を支える貞淑な美人妻マリオン… と思ったら、実は彼女は夫以外に惹かれてしまった男性がいて… ↑こんなことになってしまう。この映画、ドヌーブの脚線美が炸裂してる。成熟した大人の女性の色香のただよう太腿。といって、ラブシーンは扇情的ではなく、控えめなのがいい。 しかも夫はマリオンより先に彼女の気持ちに気づいていて、愛人の男性に、「マリオンは君を愛している」なんて言ったりしてるのだ。 はたしてこの三角関係の行方やいかに? <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.07.06 02:19:16
[Movie(フランソワ・トリュフォー)] カテゴリの最新記事
|