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Mizumizuのライフスタイル・ブログ

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ゴロワのブログ GAULOISES1111さん
Tomy's room Tomy1113さん
2008.09.12
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カテゴリ:Movie
連載中、読者の方から問い合わせが多かったジャン・コクトー&ジャン・マレー関連の参考文献。日本では、コクトー関連の書籍の翻訳は非常に充実している。ただ、同時期の作品や日記でも、日本で翻訳された時期、出版社、訳者がばらばらなため、「これ1冊を読めば2人のすべてがわかる」というものはない。数冊の本を縦横に読むことで、2人の実生活が見えてくる。Mizumizuが参照したのは、以下。

1) 「ジャン・マレー自伝 美しき野獣」 新潮社
私小説的なおもしろさに富む自伝。総括すれば、コクトー追慕の書なのだが、実はコクトーに出会う前の「何者でもなかったジャンという少年」の逸話に、心理学的なおもしろさがある。
たとえば、天使の顔をしながら、ダルジュロス顔負けの超悪ガキだった少年時代のエピソード。本人は乱暴な粗忽者だったにもかかわらず、その美貌から母の愛人や寄宿舎の監督官から性的な対象と見られていたこと――そして、ときにそうした彼らの行為を逆に利用したこと。一方で異常なほど熱愛していた母の前では本当の天使のようにふるまっていたこと。その母が窃盗狂だと知ったときの衝撃。
恋をした美しい女の子へのおずおずとしたアプローチもある(結果は、不成功)。あるいは、眼が悪いので人の顔がよく見えず、ある夜、「お兄さん遊んでかない」と声をかけてくる街娼にくっついて行って気づいたら、とんでもないオバさんだったという笑い話も(オバさんは、ラッキーだよな、めったにないくらいのイケメンが引っかかって。さぞやハッスルしただろう)
成長してからは、アメリカから来た(どうもアメリカ人好きは生涯変わらないご様子…)ネイティブ・インディアンの青年に対してほとんど一方的に寄せた恋情に近いような友愛。この彼が「自分を捜さないように」とマレーに手紙を残して一方的に去ってしまい、手紙を受け取ったマレーが慌てて夜明けのパリの街を彼のアパートに向かうエピソードは、青春映画のワンシーンのように切ない。
また、マレーに誠心誠意尽くしてくれる職場の先輩の微妙な視線と彼の気持ちを半ば知りながら、それ以上関係を深めようとしない自分自身への葛藤。神経症とルミナール依存症それに女性関係で人生をダメにした兄への献身など。
だが、残念なことに、この本、翻訳のスキルが相当低い。文体がかたく、全体的に非常に読みにくい。何度も読まないと意味がわからない文章も多い(し、読んでもわからない、たぶん誤訳と思われる箇所も散見される)。人名のカタカナ表記は、はっきり言ってハチャメチャ。1977年と古い出版で、今ほど固有名詞の確認が容易ではなかった時代とはいえ、Girardotを「ジェラルド」などと書いてしまっては、フランス語の翻訳者としてはダメダメでしょう。
内容に関して言えば、マレーの自伝は、名前を出した有名人に対して非常に配慮があるのも、他の俳優・女優の自伝にはあまり見られない、心地のよい長所。ゴシップ的な話はほとんどない。
たとえば、マレーがルキーノ・ヴィスコンティと初めて会ったのは、「ヴォーグの写真家の家」としか書いていない。これはホルスト・P・ホルストの家で、マレーはホルストのモデルにもなっているから、当然事情は知っていたと思うが、ヴィスコンティはココ・シャネルと(多分にシャネルの一方的な)恋愛関係にあり、この2人がモメたのはヴィスコンティに魅せられたホルスト・P・ホルストが間に割り込んできたため。
フランコ・ゼッフィレッリの自伝では、このゴシップをあからさまにしている(でもゼッフィリッレは自分とヴィスコンティの関係についてはイマイチあからさまにしていないところがある)。ゼッフィレッリ自身が後年ホルスト・P・ホルストに会ったときに、「やはり魅力的な男で、シャネルが嫉妬したのもわかる」とまで書いている。ホルスト自身も、「ヴィスコンティの態度が曖昧で、自分たちの関係は(自分の希望したようには)発展しなかった」と回想している。
マレーの自伝にはその手の話は一切ない。イヴォンヌ・ド・ブレとヴィオレット、クリスチャン・ベラールとボリス・コクノといった「カップル」も、すべて「XXの友人」で終わり。
また、『ジャン・マレーへの手紙』を読むと、この自伝、エピソードの時系列が事実と違う部分もあるということがわかった。記憶が曖昧だった部分もあるかもしれないが、どうも意図的に「そのことが自分の身に起こった時期」をぼやかしている部分もあるようだ。ことにジョルジュ・ライヒと別れについてそれを感じる。

2)ジャン・コクトー 「ジャン・マレーへの手紙」 東京創元社
おそらく人類の歴史上、もっとも純粋で美しい愛の書簡集の1つ。
とにかくどのページをめくっても「愛しています」「ぼくは泣いています」「手紙をください」のオンパレード。
これだけ読んでいるとコクトーという人は、マレーを思って一生涯泣きっぱなしだったみたいに思えてくる(笑)。だが、よく考えてみれば、ドゥードゥーを息子として遇しはじめたのも、人の奥さんの別荘に入り浸りになったのも、コクトー自身なのだ。多情さと一途さ、華やかな人々との交流と圧倒的な孤独が矛盾なく内在しているのが、コクトーだということだろう。
ただ、この本も、これだけで読むと、何が起こっているのかさっぱりわからない。自伝(および戦争時代のエピソードについては『占領下日記』)と一緒に読んで初めて、その手紙の書かれた背景がわかってくる。その意味では、案外読み解くのが難しい資料。だが、ある意味、自伝ではではぼやかされていたプレイベートな「事件」が、より生々しく露わになった部分もある。
特にジョルジュとの別れがマレーにとってどれほど打撃だったのか、コクトーの狼狽ぶりがそれを如実に示している。一緒に暮らした時間だけで考えれば、戦争や長期ロケをはさんでいたコクトーとの生活よりもジョルジュとのそれのほうが長い。ジャン・マレーが一番長く1つ屋根の下で暮らしたのは、コクトーではなくジョルジュだったのだ。
それでも、この私信を公けにしたのは、自分が死んでしまったあとに、この650通におよぶ膨大な詩人からの私信が「発見」され、勝手な注釈をつけて流布されることをジャン・マレーが恐れたからだ。
自伝から十数年遅れて出版されたこの本のおかげで、自伝の人名表記の誤りがだいぶ確認できた。翻訳者の腕も自伝の訳者よりかなり上で、フランス語がしっかり読めているのがわかる。
訳者も気づいているが、ジャン・マレー自身による注はかなり恣意的。つまり、はっきり読者にわからせたい部分には注を入れているが、曖昧なまま「わからせたくない」部分は明らかに意図的に無視している。
また、『オルフェの遺言』公開より前に書かれた手紙での「ぼくたちの映画」というコクトーの言及について、「これはオルフェの遺言のこと」と書くなど、不備のある(マレーの勘違いか、コクトーの手紙の日付の間違いか)注もある。
さらに、この膨大な手紙は、それが全部でないことも明らか。隠された手紙もあるかもしれないし、紛失したもの、マレーに届かなかったものもだいぶあるようだ。自伝にはあるのに、この本には掲載されていない手紙もある。
『占領下日記』を読むと、イタリアに『カルメン』の長期ロケに出たマレーに、コクトーはさかんに手紙を書いていたことがわかるが、この長期ロケ時代の手紙はわずかしか収録されていない。
特に戦争中と占領下時代は、当時の郵便事情からか、コクトーの手紙がしばしば行方不明になってしまっていたらしいことは、コクトーの手紙の文面からもわかる。また、コクトーは自分の私信が横取りされ、売り飛ばされることを警戒して、封筒に署名はせずに星マークをつけていた。私信とはいえ、誰かに盗み見られる可能性のあることはよく自覚していて、ロケ先や戦地のマレーへ送った手紙には感情の抑制が見られる。対して、2人が一緒に暮らしていたころ、口に出せない気持ちを文章にして同じ屋根の下のマレーに渡した手紙は、ストレートで相当に生々しい。

3)ジャン・コクトー 「占領下日記」 筑摩書房
翻訳の質もよく、詩人の世界観を読み解く意味でも、マレーを始めとする友人たちへの想いを知る意味でも、一級の資料。『ジャン・マレーへの手紙』のようなプライベートな私信と違って、公開されることを前提として書いた日記なので、マレーに対する想いには若干「構えた」部分があるが、それでも、たとえばマレーが志願兵として戦地に赴いた際には、最初のうち冷静に受け止めていたはずが、だんだんに心配がつのり、ついには「ジャノへの心配が肉体的苦痛」にまでなって取り乱していく様子が赤裸々に綴られている。
この本だけを読むと、公開を前提とした「ジャン・マレー論」と「私人としてのジャノへの想い」がときにごちゃごちゃになっており、コクトーにとってのマレー像を曖昧にした恨みもあるのだが、あわせて『ジャン・マレーへの手紙』を読むと、コクトーの公けの顔と私生活の顔がどう違うのかわかって興味深い。
『悲恋(永劫回帰)』の台本執筆から、当時大手の映画製作会社が囲い込もうとしていたマレーの身柄を取り戻すまでの苦労、電力不足と予算不足で難航する撮影の様子、映画が公開されるや「映画館の入り口がこわされるほど」の熱狂的な大成功をおさめるまでがリアルタイムで実況中継されているのも貴重。
一方で、マレーを大スターにするという目論見が達せられたあとに、コクトーとマレーに襲い掛かった誹謗中傷の嵐や嘲りに満ちた好奇の眼にコクトーが次第に追い詰められ、自分の存在が俳優マレーにとっては、害になっているのではないかと思い悩む様子も胸に迫ってくる。
少なくとも、コクトーとマレー、それぞれの著述を読む限り、自分たちの関係により深く悩んでいたのは、明らかにコクトーのほう。マレーの書いたものからは、2人が愛し合うことへの罪悪感や苦悩はほとんど、というかまったく感じられない。マレーがやや後ろめたく思っている部分があったとすれば、それは自分がコクトーの熱烈な想いに十分に応えられない部分があること、コクトーに自己犠牲や忍耐を強いていることを自覚していることだろう。
『占領下日記』は、マレーとの関係をのぞいても、時を越えた読者へのメッセージ性が強く、一読の価値のある日記。コクトーは常に、この本をいつかどこかで読むであろう「未来の若者」に理解してほしいと願いをこめて、自分のモラルや生き方を示した。

4)ジャン・マレー 「6つの愛の物語*赤毛のギャバン」 TBSブリタニカ
なんとジャン・マレー作の児童書。イラストもジャン・マレー。ことに「第一部 ミラ」が興味深い。ミラとはもちろん、マレーが(休暇目当てとはいえ)生涯一度だけプロポーズした女性の名前。ミラという王女に寄せる「歌えない王子」の献身的な愛の物語で、病気のミラの枕元に跪き、「ぼくの力と健康があなたに乗り移りますように。あなたなしではぼくは生きていたくない」とささやく王子の姿は、ジャン・コクトーが病に倒れたときのジャン・マレーの心情が反映されている。
亡き王妃の忘れ形見である美しい王女を熱愛し、一度は王子を王女から遠ざけようとしながら、結局は2人を祝福する王の心情は、「愛は独占することはではく、愛する人の幸福を願うこと」と自分の欲望を犠牲にしたコクトーのマレーに対するそれのようでもある。
ほかにも、「ジャン・コクトーがぼくにしてくれた話を君たちにもしてあげよう」という書き出しで、コクトーと行ったバカンスの思い出を混ぜるなど、天国のコクトーとの共著という色彩も濃いように思う。


<明日も参考資料をご紹介します>









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最終更新日  2008.09.13 01:33:48



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