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カテゴリ:Movie (アンドレ・ユヌベル)
1950年代末から1960年代の初めにかけてフランス映画界で巻き起こった時代劇ブーム。騎士道華やかなりしルイ王朝時代のロマン活劇を、ジャン・マレーは3年の間に4本も撮っている。そのうちの3本の監督を務めたのが、アンドレ・ユヌベル。時代劇ブームが去り、スパイ映画が流行ると、今度は再びジャン・マレーと組んで『ファントマ』3部作を撮り、これもヒットさせた。
『怪傑キャピタン』はアンドレ・ユヌベルがジャン・マレーをキャスティングした騎士道活劇の2本目(1本目は『城塞の決闘(Le Bossu)』)で、日本でもDVD化されている。 ◆新品DVD★ 0922PUP2 【080918_dvd】 【080925_dvd】 ユヌベル作品のよいところ――好みによっては、物足りないところにもなるかもしれないが――は、過剰なお色気がない、残酷なシーンがない、娯楽に徹していて深刻でないことだ。 ジャン・マレー主演作品に関して言えば、ジャン・マレー+喜劇役者+美女をセットにしたことが映画がヒットした最大の理由だと思う。 ファントマで共演したルイ・ ド・フュネスは、騎士道モノでもマレーと組んでいるが、彼のおもしろさは、なんといっても弾丸のようなそのしゃべり。一方、 『怪傑キャピタン』のブールヴィルは「間」のおもしろさが絶妙の喜劇役者。そしてブールヴィルは外見からは想像もつかない(?)美声の歌手。『怪傑キャピタン』でも、ブールヴィルはハッピーな歌を存分に披露してくれ、結果、作品にミュージカルのような楽しさが加わった。 下の写真は王妃(イタリアのメディチ家から来たマリー・ド・メディシス)付きの侍女との間に、恋が芽生えるシーン。聞きおわったあとすぐ口ずさみたくなるようなキュートなメロディにのせて、楽しげに侍女の周りを踊るブールヴィル。ブールヴィルはどうみても大道芸人なのだが、自称「詩人」。だからって、この歌詞…… ……ジャン・コクトーへのイヤミですか?(笑) コクトーはジャン・マレーへの手紙で、「君の『怪傑キャピタン』と『クレーヴの奥方』を観るのを楽しみにしています」と書いている。『クレーヴの奥方』はコクトーの脚色、大御所ジャン・ドラノワ監督だったのだが、現在の日本では観ることはほぼ不可能。封切り当時も『怪傑キャピタン』のほうがヒットした。 騎士道物語の原則は、日本の時代劇と同じく勧善懲悪であること。なので悪役は…… 「完全超悪」なワルモン面。リナルドという名前といい、巻き舌でRを発音するところといい、明らかにイタリア人。今じゃ、こんな差別的な設定は難しいだろう。 『ファントマ』でジャン・マレーの恋人役だったのは、コケティッシュでセクシーながら、「脱がない美女」だったミレーヌ・ドモンジョ。ユヌベル監督というのは、この手の過剰でない媚態を発散させる美女をキャスティングするのが得意。そして、しばしば「もう1人のタイプの違った美女」も登場させる、とっても視覚にウレシイ監督なのだ。それでいて、007シリーズのように、入浴シーンだのベッドシーンだののような露骨なお色気シーンがない。この「慎み」もMizumizuがこの監督が好きな理由だ。1960年代のフランス映画ならではの、洒落た大人の演出という気がする。 ハリウッドでもルイ王朝時代の騎士道モノは作られるが、どうしてもアメリカンな俳優がフランスの時代劇の主役を演じると違和感がある。そこへいくと『怪傑キャピタン』は衣装といい、景色といい、役者の表情や立ち振る舞いといい、フランスそのもの。フランスの香り、という気取った言葉よりむしろ、土着の匂いと言ったほうがふさわしいかのもしれない。そう、ルイ王朝時代の騎士道物語というのは、必ずしも絢爛豪華なだけではない、そこはかとない「ローカルさ」もただよっているのが魅力なのだ。 『怪傑キャピタン』のヒロインはイタリア人のエルザ・マルティネリ。ちょっと離れ気味のつぶらな瞳がなんともチャーミングな美女。初登場シーンは…… なぜか男装!? ストーリー的にはあんまり意味のない男装。コスプレの原点かもしれない。 彼女は勇敢にも、ピストル一発でジャン・マレー演じるド・カペスタンの危機を救う。 彼女の名はジゼル。緑の羽飾りをなびかせた「リボンの騎士」といったところ。とにかく麗しいの一言。 さっそく一目惚れしたド・カペスタンは、「私につかまって!」とかけよったリボンの騎士の背中に…… 早くもジワジワ~と腕を回し、つかまるというより、ほとんどすでに抱きしめている。 騎士道原則その1:気に入った美女には、すばやくストレートにモーションをかけるべし でもって、傷ついた自分を手当てしてくれるリボンの騎士に、ド・カペスタンは…… またジワジワ~と腕をなぜたりして、わかりやす~いアッピール。 ところが、いつの間にか リボンの騎士が、フランス人形に変わってる!? こ、こっちでもイイのでは? と思わせる金髪碧眼の美女。 さてさて、ブールヴィル演じる大道芸人のコゴランは、「まさお君」をさらにダメにしたようなワンちゃんを連れて旅をしている。 左、フランスのまさお君。右、コゴランの芸を楽しんでみてるド・カペスタン。コゴランは得意の美声を披露。 ところが! コゴランは旅の途中で、強盗に襲われ身ぐるみ剥がれてしまう。主人の大ピンチだっていうのに…… 馬車で「お座り」して見物してるまさお君(右)。全然役に立たない…(笑)。 さらに、ご主人がこんなになっちゃったというのに、まさお君は…… 明らかに足元でノンビリしてる。 そこへ、 え? 詩人だったの? ジャン・コクトーに対抗してるだけでは? ちなみに、コゴランは映画中歌は歌うが、詩を披露することは一度もない。歌う詩人ということなのだろうか。詳細は映画公開から50年たった今も不明…… 「旅する騎士の友になってくれ」 とド・カペスタンに言われ、喜んで承知するコゴラン。 「あなたの恋人たちのために、(詩人の私が)愛の詩を作りましょう」 とまるでシラノ・ド・ベルジュラック気取り。そんな詩人に騎士は、「恋人は……」 と純な台詞。 騎士道原則その2:騎士は一途であるべし そこへなんと、消えてしまったリボンの騎士が、貴婦人になって登場。 喜んで声をかけるド・カペスタン。 ああ、なのに…… 貴婦人になったリボンの騎士は、こんなにもつれないのであった。 ガ~ンとなるド・カペスタン(左)。 「これは何かある」 とふんだ騎士は詩人に、 「彼女の使用人に酒を飲ませて、彼女の名前を聞きだせ」 と軍資金を渡すのだが、夜酒盛りをした詩人は自分のほうが酔っ払ってしまい、相手から情報を聞き出すどころか…… ド・カペスタンのことをベラベラ。 さすがにまさお君の主人だ。 「何か聞き出したか?」 というド・カペスタンに…… って……。詩人って役に立たないなあ。 翌朝、リボンの騎士はパリに発ってしまい、恋する騎士は後を追いかける。美女は途中、山賊に襲われ…… そこへ、ド・カペスタンがマントをひるがえしてカッコよく登場! もうもうと上がる土煙、カーブを描いた道を疾走する馬、馬上で大きくサーベルを引き抜く騎士、たなびくマントと帽子の羽飾り――すべてが完璧。ことに衣装に使われている赤が非常に印象的で、かつ美しい。 これぞまさしく、騎士道映画の王道を行く場面。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.09.20 11:46:19
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